なぜ暴力団になったのか、聞いてみた。

「親の出自ですよ。ただそれだけで、小さいころから何もしていないのにいじめを受けた。田舎の小さい町だったから、逃げ場がなくてね。どこへ行っても石を投げられたり蹴られたり、大声で出自をバカにされたり……。そのうち怒りに変わってきてね。多勢に無勢だから、立ち向かうには暴力しかなかった。俺は暴力でずっと生きていくんだと、子ども心に決めたんですよ」

 こう話したあと、ふと笑った。

「でもね、教会で聖書を学んでいる今が人生で一番幸せなんです。人を憎んで、汚い世界で汚いことをやって、塀の中ばかりを見て生きる人生なんて、おもしろくもなんともなかった」

 男性は、記者と話した後、礼拝に来ていた刑務所から出てきたばかりだという20代の男性に声をかけた。

「塀の中で壁だけ見ててもつまらないでしょ。そんな人生送っちゃだめ、幸せに生きないと」と言って彼の手を握り締めた。彼もずっとうなずき、「本当につまらなかったです。今度は、がんばります」と応じて、ハグをした。

 若い彼のこの先に、どんな道があるだろうか。

「将来の被害者をなくすために、将来の加害者をなくす」

 弁護士らの合言葉の意味を改めて考えてみたい。(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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