
それでも、彼らが成人するときにお祝いを渡したり、食事をごちそうしたりして、どうにか感謝の気持ちを形にして伝えては来ていたんだけどね。彼らの中ではまだ俺に迷惑をかけてはいけないという思いが強いみたいで、一線を引いているんだよね。ただ、俺がハッスルに行ったときはすごく怒っていたけど(笑)。今でも天龍プロジェクトの大会に来てくれるし、娘よりも長い付き合いだよ。
プロレスはファンと選手の距離が近いんだよね。それを強く思ったのは、全日本の興行で下関の旅館に泊まったときだね。当時は、ジャンボ鶴田が絶好調のときで、俺たちが泊まる旅館が知れると、ファンが20人くらい来て同じ旅館の一部屋に5~6人ずつ泊まるんだ。それで、ジャンボが夜になってどこかに出かけようとすると、ファンもジャンボを追いかけて一斉にワー、キャー言いながらドタバタと移動するんだよ。そうしたら馬場さんが「うるさいんだよ、この野郎!」ってファンに怒鳴ってね。「馬場さんがやきもち焼いてる(笑)」と思ったもんだ。
あのときのジャンボは27歳くらいで、毛むくじゃらの元力士とか、規格外の外国人だらけの全日本の中にあって、本当に人気があったよ。馬場さんとデストロイヤーがエースだったけど、ルックスではかなわないよね(笑)。ジャンボもそういうファンにことさら優しかったし、新宿ルイードでギターの弾き語りコンサートをやったりね。普通のプロレスラーは怖さと近寄りがたさがあるんだけど、そういう垣根がなくてフラットにファンと接するのがジャンボの魅力だね。
相撲からプロレスに転向するとき、悪い意味で印象的だったのがプロレスファンの野次だ。日大講堂で行った全日本プロレスの興行の中で俺の断髪式をやったんだけど、試合の途中で儀式をやったもんで、プロレスファンにとっては「なんだよ、これ!?」だったようだ。上の席から「さっさとプロレスの試合やれよ!」って野次が飛んできて、これがよく聞こえるんだ(笑)。断髪式は相撲取りに取っては最後の大切な儀式で、こっちは厳かな気持ちでやっているのに……。「この野郎! 舐めやがって! いつか天龍源一郎のチケットを買って来させるようにしてやる」って思ったもんだよ。