暴力団の家庭は外側から実態が見えくにい(写真提供=大洋図書)
暴力団の家庭は外側から実態が見えくにい(写真提供=大洋図書)

 社会と暴力団との関係を断つことを目的とした暴力団排除(暴排)条例が47都道府県で施行されてから、今年で10年になる。暴力団の数は大幅に減少し、彼らを取り巻く環境は一層厳しくなった。一方で、暴力団が社会から断絶されることにより、その背後にいる妻や子どもたちなど“家族”の姿もまた見えづらくなっている。暴力団の家庭に生まれた子どもたちに焦点を当てた「ヤクザ・チルドレン」(太洋図書)を出版したノンフィクション作家の石井光太氏に、「ヤクザの子ども」の知られざる実態を聞いた。

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――今年は『ヤクザと家族』や『すばらしき世界』など、暴力団の生きづらさをテーマにした映画が話題を呼びました。これまでの任侠映画とは違い、暴力団の“負”の側面もクローズアップされました。新著「ヤクザ・チルドレン」で多くの暴力団の家庭を取材した石井さんはどう受け止めましたか。

 ヤクザの現実に注目が集まったのはいいことですが、描かれ方はまだ甘いと思います。実際はもっと悲惨です。ヤクザ本人の「生きづらさ」よりも、問題は家庭にはびこる薬物です。ヤクザの家庭は、必ずと言っていいほど薬物が絡んでボロボロになっている。映画では薬物を使用しているシーンなども少しは出てきますが、実際はあんなものではありません。ヤクザ本人のみならず、家族までもが薬物にむしばまれている状況に目を向けなければ、実相は描けないと思います。

 ヤクザが女性と子どもにはやさしいとか、薬はやらないといったパブリックイメージは幻想で、実際にはかっこよさなど一切ありません。今や、妻や子どもにDVをしないヤクザの親なんて、ほとんど聞いたことがない。例外的にそうじゃなかったのは、大幹部の裕福な家庭か、いろんなシノギができた80年代以前の話です。

――石井さんが見た暴力団の子どもを取り巻く実態はどのようなものだったのでしょうか。

 美談で語られるような仁義の世界はゼロに等しく、実際は薬物まみれです。子どもの母親(ヤクザの妻)も、ほとんどが薬物中毒者です。

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悲惨すぎて記憶が飛んでいる子もいる