「おもしろそうだなと思って引き受けたのですが、本当に楽しかった。定期的に原作者の横幕智裕さんや漫画家のモリタイシさん、編集者と集まって、病気の話から『放射線科あるあるネタ』までワイワイ話して、物語を立ち上げていきました」

 そして2019年4月には「ラジエーションハウス」の1作目がドラマ化された。「テレビの影響力の大きさには驚きました。第3話でデンスブレスト(高濃度乳房)の患者さんを扱ったのですが、放送後にはネットなどでも注目が集まりました」

 デンスブレストは乳腺の密度が高い乳房のことで、マンモグラフィー検査をすると乳房全体が真っ白に映ってしまう。そのため、がんの有無が判読しにくくなる。

「それなのに、多くの病院では『異常なし』と判断されてしまうのです。デンスブレストの人は、超音波検査など別の画像検査を受ける必要があります。日本女性の半数以上はデンスブレストと言われているので、ドラマを通じて多くの人に伝えられて本当によかった」

 ちなみに、窪田正孝さん演じる主人公は診療放射線技師だが、医師免許も持っている。この「ありえない」設定は戸崎医師の案だ。

「放射線科医は技師の仕事もできますから、医師免許を持っているのに技師として働く人はいないでしょう。でも、医師でもあるからこそ主人公の言葉に説得力が生まれるし、両方の立場を理解する主人公がいることで、放射線科は医師と技師によるチームなのだということが伝わりやすくなりました」

■放射線科医と技師の信頼関係が「見えない病気」を見つけだす

優秀な技師の撮影した画像は、放射線科医の診断の精度を高める。診断の精度は各診療科での治療の質を高め、患者を救う。

「放射線科医は患者さんを直接治すわけではありませんが、病院の中のどの医師よりも全身の疾患について詳しい医師です。その力を発揮するためにもチーム力が大切なのです」

 そして実際に、ドラマ顔負けのユニークな個性が集まりがちな科でもあると言う。

「医療機器に興味がある人、画像の読影がとにかく好きな人、超音波やMRIを極めたい人など、オタク要素がある人が多いかもしれません(笑)。そんな人たちがチームになり、診断技術を高めていくのはおもしろいです」

 一方で、放射線科医の仕事も変化の波にさらされている。

 10月スタートの「ラジエーションハウスII」でも描かれるように、病院の画像診断を請け負う会社などが増えてきているのだ。放射線科医の仕事場は病院だけに限らない時代が始まっている。

「医療機器の目覚ましい進歩とともに、画像診断のやり方も変わっています。時代とともに歩めるのも放射線科医の魅力です」

戸崎光宏医師/相良病院放射線科部長、さがらウィメンズヘルスケアグループ乳腺科部長。NPO法人乳がん診断ネットワーク理事長。1993年東京慈恵会医科大学卒業。都立駒込病院、ドイツ・イエナ大学留学を経て、2007年から亀田総合病院乳腺科勤務。亀田京橋クリニック診療科部長を経て現職。

(文/神 素子)

※週刊朝日ムック「医学部に入る2022」より