また、北島のように、どこか本多の周囲は賑やかだ。友人に囲まれ、人に恵まれている選手。それも、世界と戦ううえで非常に大切な要素になる。話すとなぜか応援したくなる。そんな雰囲気も本多は十分に兼ね備えている。

 そして、何より本人が日本の『エース』としてチームを牽引したいという思いを持っていることは、今後本多が日本代表チームを引っ張っていくに足りる素材であることは明確だ。

 さらに本多は400m個人メドレーでも、世界に手が届く記録を持っている。東京五輪には出場できなかったが、瀬戸、井狩裕貴に次ぐ3位につけたのは本多である。さらにいえば、記録のレベルは低いが、2020年の全日本学生選手権では井狩を下して1年生で優勝を果たしている。こちらでも力を伸ばしていけば、まさに瀬戸の存在すら脅かす『エース』であることは間違いない。

 あとは、彼に必要なのは継続力である。五輪だけ強い、という選手も多く存在するが、萩野や北島といった、日本のエースとして世界にその名を轟かせた選手たちは、必ず五輪と五輪の間の大会でも世界で活躍し続けてきた。北島は世界記録を樹立し、萩野は200m自由形で当時絶対王者に君臨していた中国の孫楊を2014年のアジア大会で下している。本多も、ぜひとも来年の福岡で開催されるFINA世界水泳選手権を皮切りに、2024年のパリ五輪までの間に、『日本にTomoru Hondaあり』という存在感を示したいところだ。

 それと同時に、本多だけではなく、本多と同世代の選手たちの台頭にも期待したい。過去に金メダルを獲得してきたエースと呼ばれる選手たちは、なぜか五輪の開催年に高校3年生、大学4年生を迎える世代が多かった。ソウル五輪の鈴木は大学4年だった。岩崎は金メダルを獲得したバルセロナ五輪の時は中学2年生だったが、年代としては高校3年(アトランタ)、大学4年(シドニー)で五輪を迎える世代であった。そして、北島、柴田もそうだ。当然、萩野、瀬戸も同じである。これがただの偶然と言ってよいものなのだろうか。

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