安倍は趣味のゴルフでも「ショートになるより、オーバーが多い。どんどん狙っていくタイプ」(首相周辺)だという。安倍があこがれる政治家の一人は、元東京都知事の石原慎太郎だ。「永田町にも霞が関にも世論にも挑戦的で、何でも言いたいことを言いながら、すべてを手に入れている」と漏らしたこともある。

 敵と味方が明確になる選挙になると、安倍の闘争心は一段と燃え上がった。13年6月9日、安倍はフェイスブックにこんな投稿をしている。「聴衆の中に左翼の人達が入って来ていて、マイクと太鼓で憎しみ込めて(笑)がなって一生懸命演説妨害してましたが、かえってみんなファイトが湧いて盛り上がりました。ありがとう。前の方にいた子供に『うるさい』と一喝されてました。立派。彼らは恥ずかしい大人の代表たちでした」

■形勢不利も「ひっくり返してやったよ」

 選挙になると闘志を燃やす安倍の姿は自民党職員の間でも話題だった。国政選挙になると、安倍は党側に「各候補に『電話をして欲しいところがあればリストを出してくれ』と指示して欲しい」と要求。演説会場の移動の車中でも「いまから演説します」「いま、演説を終わったところです」などと電話で支援を呼びかけた。折り返しかかってきた電話にも必ず出たという。

 その典型と言われたのが、自らの選挙区がある山口県下関市で行われた2017年3月の市長選だった。衆院の中選挙区時代には、安倍の父晋太郎と、自民党参院議員・林芳正の父義郎が議席を争った。地元の自民はいまだ安倍派、林派に分かれており、市長選では林派が現職、安倍派が安倍の元秘書の新顔を推した。安倍にとっては形勢不利と言われたが、携帯電話で自ら電話を重ねて、安倍の推す元秘書は初当選した。その直後、安倍は周囲にこんな手応えを語っている。「ひっくり返してやったよ」。

■安倍演説のネタを集める内閣情報調査室職員

 安倍の敵か味方か。安倍政権下の永田町ではそのことが大きな意味を持った。2018年春、大使に赴任することになったある外務官僚は、旧知の自民党元幹事長・石破茂に転任のあいさつをしようと、議員会館にある石破の事務所に連絡を取った。石破は留守。秘書は「党の会合に出ている。党本部であいさつして欲しい」と告げた。

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あいさつを取りやめた理由とは…