石島個人としては着実に階段を上ってきたかもしれないが、その一方でパートナーは固まらなかった。しかし、2019年5月。石島は東京2020を1年後に控え(延期前の日程)、「救いの手を差し伸べてくれた」という同じ所属先の大先輩である白鳥とペアを組むことになった。

「白鳥さんが救ってくれなかったら自分はこの場にいない」と振り返るように、白鳥とパートナーを組んで以降、水を得た魚のように縦横無尽に動く石島の姿があった。ネット際では、ブロッカーとして押し負けない威圧感を発揮。石島がボールを弾いても、白鳥が何事もなかったように修復し石島にボールをつなぐ。一寸の狂いもない白鳥の正確なトスが上がり、石島が高い打点からスパイクを打ち下ろしていく。力と技が絶妙にマッチし相手に付け入る隙を与えない強さを誇示してきた石島/白鳥組は、2019年は国内ツアー6戦5勝。それから2021年5月まで8戦6勝、紛れもなく『王者』として地位を築いてきた。

 だからこそ、石島は余計に「勝ち」を意識せざるをえなかった。今大会は、長年抱いてきた夢をかなえなければいけない場所。石島の敵は「勝ち」を意識してしまう自分自身だった。これまでにない重圧がかかるなか、自身の心を操縦することが最大の目標であり、課題だった。

 大会第1日目。初戦となる2回戦で勝利し、翌日の最終日で勝利すればオリンピック出場が見えてくる、というメディアの代表質問に対し、石島は声を震わせながら少し苛立ちを見せた。

「何度も言いますが、勝ち負けは1点1点の先にある。それを積み重ねた結果、オリンピックがある。わかりますよね?」

 それからというもの、まるで自分に呪文を唱えるように石島は「1」というワードの単位を変えて、コートインタビューや記者会見で繰り返し答えていたのが印象的だった(下記、記者会見での石島のコメント)。

「準決勝は前半6点くらいまでは、勝ちを意識し過ぎた。そこから白鳥さんのプレーに助けられて一息つけて、本来の目標である1点1点を積み重ねることができたのはよかった」

「どんな試合でも勝ちたいけれど、勝ちを意識して本質を見失ってしまう場合もある。そういう意味で見失わないためにも、1歩1歩踏みしめながらやっていきたい」

「若いときは取材に対しても『勝ちたいです』とか『目標はメダルです』とメディアさんの求める答えを言わないといけないと思っていた部分があった。今は自分が思っていないことについては言うつもりはない。自分自身が思っていることを伝えたほうがいいし、本心で語ろうと決めた。もちろん勝てればいいけど、そうではなくて目の前の1本が大切。小さいことが大きい勝利に結びつくと思っている」

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東京五輪では勝てるのか?