※写真はイメージです(写真/Getty Images)
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 マスクの着用が当たり前になった。しかし、このコロナ禍の「当たり前」によってコミュニケーションに困難を感じる人もいる。研究論文によれば、マスク着用時は声に含まれる高周波数域の音がカットされるという。論文の共同執筆者に取材した。

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 人の耳は、年を取るにつれ高音域を聞く機能から衰えていくと言われている。蝸牛(かぎゅう)とよばれる渦巻き形の器官に備わる「有毛細胞」の障害により、高音が聞こえにくくなる。これを加齢性難聴という。年をとるとモスキート音(蚊の飛ぶ音)などが聞こえない、あるいは聞こえにくくなると言われるのはこのためだ。

 その一方、マスクを着用すると声の高音域がカットされ、声が聞き取りにくくなる可能性を示唆した論文がある。久留米大学医学部による2012年の研究だ。実験では、看護師役11人と患者役1人を用意。朝の検温場面を想定し、患者役にはベッドで寝てもらう。看護師役はマスク着用/非着用の2パターンで検温を実施。患者役には目を閉じてもらい、マスクを着けているかどうかがわからないようにした。

 実験の音声は録音し、音響分析ソフトによって数量化した。「音圧レベル(周波数帯ごとの音の大きさ)」「声質(声のザラザラした感じ、しわがれ声、かすれ声の程度を表す指標であるHNR。値が大きいほど声質が低い)」のふたつの観点で分析した。

 分析の結果、音圧レベルにおいては、マスク着用時には非着用時に比べて、4000~8000ヘルツといった高周波数域の音圧が低くなる傾向にあることがわかった。一方、2000~4000ヘルツの低周波数域においては、マスクの着用/非着用による音圧の違いはほとんどみられなかった。

 一方、声質に目を向けると、検温の説明場面においては、マスクの着用/非着用による統計的に有意な差はなかった。しかし、計測した脈拍値を患者に伝える場面では、マスク着用時のほうが声質が有意に低下した。

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マスクで人の声に含まれる高周波域の音がカットされる傾向が