どうやらマスクを着けると、人の声に含まれる高周波域の音がカットされる傾向があるというのだ。

 一般的に、人がおこなう会話は300~3000ヘルツぐらいの周波数がメインであると言われている。4000ヘルツは鳥のさえずりなど、かなり高い音で使われる周波数域だ。ただ、マスク着用時に4000ヘルツ以上の音域が低下しているということは、会話時にも4000ヘルツ以上の音が部分的に混ざっていると考えられる。

 ところで最初記したように、加齢性難聴は4000ヘルツ以上の音から聞こえなくなる。ということは、みんながマスクを着けてしゃべっていると、加齢性難聴と同様、日常会話における聞こえに困難を感じる可能性がある。まして、すでに加齢性難聴が進行している人にとっては、マスクを着けた人の声はより聞きにくくなると考えられる。

 なぜマスクは高音域をカットするのか。共同研究者の一人である久留米大学医学部の加悦美恵准教授は二つの理由を説明する。

「ひとつはマスクによって高音域の音がフィルターされるという説です。高音域であるほど振動の回数が大きく、フィルターが振動を阻害し、音圧が下がるのではないか。もう一つは、マスクを着用することで物理的に口の動作が阻害され、通常とは異なる声の出し方になっているという説です。ただ、口の開きが抑制されることが高音域の音圧低下に結びついているのかどうかははっきりしません」(加悦准教授)

 では、マスクを着用した状態ではどのように話すのがいいのか。

「話す前に、『これから話しますよ』という合図を送ることが効果的です。肩に触れるとか身ぶり手ぶりで示すなど、なんでもいいので合図を出すことで、話の聞き取りに集中してくれます。また早口にならずに声のスピードをコントロールすることも大事だと考えられます」(同)

 またもう一つ重要なのは、マスクを着けているということを意識して話すことだ。普段よりも声が届きづらい状況にあるということを意識することで、明瞭な発話をしようという動きが起こる。これをフィードバック効果という。

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新しい会話のあり方を考える必要が