英語を使う山下さんはどんな性格になるんですか?と聞くと、「素直で正直」と照れ笑いする。

「日本語だと、あいまいな表現でもなんとなく伝わりますよね。『あ、大丈夫です』とか。でもそれを英語でやると誤解を与えてしまうので、行くか行かないか、好きか嫌いか、自分の気持ちを正しく伝えるように努力しました。そうしたらなんか、素直な人になってしまうんですよね(笑)」

 素直な自分を見せれば見せるほど、周囲との距離が縮まるのを実感した。

「撮影が終わる頃には、ファミリーになれた気がしました。このすばらしい現場を体験できたのは、学び続けた英語のおかげ。ぼくの財産だと思っています」

 1年ほどまえからはインスタグラムを始めた。旅先などで撮影した写真に、日本語と英語の二つのキャプ ションを添えている。開設したとたんに100万単位でフォロワーが増え、現在約440万人。世界中からさまざまな言語のコメントや「いいね!」が集まる。

 日本語と英語のキャプションを比べると、ニュアンスが微妙に違うことに気がつく。例えば、ある日のインスタグラムでは、11歳の自分を振り返り「このスタジオでよく泣いていた」と書いた。それに対応する英文の「泣く」は“cry”ではなく“found myself in tears”と表現されている。

「cryだと単純で子どもっぽい泣き方に思えたんです。それよりtearsという言葉のもつ悲しさのほうがしっくりきた。うまく言えないんですけど……自分の伝えたいイメージの画像みたいなものがあって、そこに一番近い言葉をつなげていくようにしています。ただ、誰かが読んで失礼に感じたり、違和感があったりするといけないので、公開するまえにネイティブの友人に『これおかしくない?』と相談することもあります」

 山下さんはここ1年ほどの間に、英語表現の選択肢が増えてきたと実感しているそうだ。

「思春期くらいの英語力まで成長したかな、と。言語を問わず、そのくらいの年齢になると誰でも言葉を選ぶことを覚えますよね」

 山下さん自身、小学校高学年くらいで「もう少し大人っぽい言い方をしたいな」「この言葉はストレートすぎるから言い方を変えよう」と使う 言葉を選ぶようになった記憶がある。

「あの頃の日本語のレベルと、いまの英語のレベルが同じくらい。ようやくいまになって『この単語はストレートすぎて子どもっぽいな』という自然な感覚がつかめてきました」

(文/神 素子)

※「AERA English 2020 Spring & Summer」から抜粋