M-1で優勝した「ミルクボーイ」も決勝に進んだ「ぺこぱ」も、初めて見た人が多かったと思うんですが、彼らにとっては普段、劇場でやっているのと同じことだったりするわけです。もちろん、この日のために1年、2年かけて準備してきた最高のネタをぶつけるんだけど。人って勝手なもので、知っているか知らないかで、その人への評価が大きく変わるんですよね。

 僕はあの決勝を見て、漫才は常に進化形なんだと改めて感じました。僕のキレ芸だって、2003年にはウケたけど、今じゃダメですよ。当時は芸人がバイトするなんて恥だと思われていて、誰も口にできない雰囲気でしたから、借金やバイトのことを叫ぶ僕が面白がってもらえた。「もう30歳ですわ」「お笑い10年やってます」って自虐的に言っていたけど、今だと「たかだか10年か」と思われるだけですからね。漫才はいつも時代が反映されて、使う言葉も変わっていくわけです。

 漫才って、こいつだと決めた相方と毎日毎日稽古して、自分たちが面白いと思ったことを頭がパンクするぐらい考えて考えてやり続けて、何が面白いのかわからなくなった先の先に出来上がるものなんですよね。だから決勝に出てくる芸人がみんな芸歴8年目とか、それぐらいのキャリアなのは、形をつくるのに最低でも5~6年は必要だということです。ネタさえあれば、誰とやっても面白いというものでもない。

 みんなあらゆるものを削ってそこに立っているから、あの決勝の舞台裏なんか、ものすごい空気になっているはずですよ。金がない、バイトしたくても時間がない、家賃が払えない。飲みに行きたくてもすべて断って稽古をしてきたわけですから。

 だから、今年のM-1を見て、お笑いやってみたいなと思った人に「やめた方がいい!!」と言いたい。文字通り血のにじむ努力があって、それでもほとんどの人が売れないし、決勝の舞台に立てるのはほんの一握りですからね。

 僕はもう単独ライブが12年目になり、ピンでのしゃべりに慣れているので、もう漫才みたいに誰かが横にいると逆にしゃべりにくくなっていて、それも不思議なものだなと思います。当初から「プロが見て悔しがるライブを作ろう」という目標を掲げて、自分にものすごく負荷をかけてやってきて、この芸が自分の軸になっています。これがあるからこそ、テレビでコメンテーターをやったり、役者をやったりできるんだと思う。

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“将来への準備”がなかなか続かない理由