同じ場面について、監督の土方宏史(43)さんにも聞いてみた。

土方(以下同)「テレビ大阪の現場に行って、月並みな言葉かもしれませんが、成長したなとは思いました。イベントの取材相手に『何年目なんですか?』と聞く場面とか見ていると、ぼくも記者としてああいう仕事をしていたことがあるので、ずいぶん様になってきているなぁ。ちょっと見くびっていたのかもしれんなあと」

──土方さんは、何が変わったからだと思いますか?

「なんだろう……。ひとつは、大阪と名古屋の局のちがい。受け入れ体制というか。作品からはちょっと外れてしまいますが、映画の前半で彼はミスをするたびに叱られていたでしょう。それで萎縮してしまっていたこともあったでしょうし。けれども、次の職場では受け入れられていることから防御する必要はなかったのかもしれない」

──観終わってからもつよく印象の残ったのは、ワタナベくんを含んだ四人の撮影班が引き上げていく後姿。背中越しのちょっとした会話からやさしい空気が感じられ「よかったね」と声にだしそうになったんですよね。

「実際やさしいんですよ。これは皮肉な話ですが、あの四人は全員外部スタッフ。テレビ局の正社員じゃない。表現が難しいんですが、彼のもっている弱い部分を受け入れているところもあると思うんです。(ノーナレーションの)作品の中ではそういう説明はしていないので、どこまで言っていいことなのかは難しいことなんですけどね」

──余韻を残す編集がなされていて、後姿の四人の場面がほんのすこし長めで、希望を感じました。

「あのときぼくらも現場で、彼の未来は明るいんじゃないかというのは感じました」

──そもそも、どうしてワタナベくんをキーパーソンのひとりにしようとされたのですか?

「いろんな理由があります。ひとつは、ユニークであること。無防備というか、おっちょこちょいで、クスクスと笑える部分があるでしょう。自分の中にも似たものが多いにあるので、どっちかというとシンパシーをもっていました。あと、愛らしい。ほうっておけないというか」

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「わかるよ」と正社員のぼくは言えない