自立支援施設を脱走した男性(撮影/西岡千史)
自立支援施設を脱走した男性(撮影/西岡千史)

 ひきこもりが長期化し、80代の親が50代の子どもの生活を支える「8050」が社会問題になっている。最近では、ひきこもり経験者が、通学中の児童や付き添いの保護者を殺傷した後に自殺した事件や、父親である元農林水産事務次官に殺害されたことが大きなニュースになった。一方で、ひきこもりや発達障害の子どもを抱える親が、本人の意向を無視して民間の「自立支援施設」に預けたことで、トラブルに発展することも起きている。現場では今、何が起きているのか。

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 2018年3月12日、藤野健太郎さん(仮名、31)の運命は、この日に変わった。

 神奈川県内のアパートで過ごしていると、突然、何者かがドアのカギを開けた。そこに立っていたのは、3人の見知らぬ男。後ろには藤野さんの姉が立っていた。そして、姉はこう言った。

「家賃のことで、この人たちが話あるって」

 藤野さんは、関東の有名私立大を卒業した後、IT関連企業に入社した。しかし、激務が続いたことで双極性障害になり、4年後に退社せざるをえなくなった。その後、精神科に入院。退院後は母親から支援を受けてひとり暮らしをしていた。見知らぬ男が訪問してきたのは、経済的に自立して生活ができるよう、アルバイト先が決まった矢先のことだった。藤野さんは、こう振り返る。

「2月に母親からの経済的な支援がなくなって、家賃の振り込みが遅れていたのは事実です。ただ、現金は用意できていたので、すぐに支払うつもりでした」

 不思議だったのは、家賃の支払いが数日遅れたぐらいで取り立てが家に来たことだ。入居時には、家賃保証会社に保証金を支払っている。そう考えながらも、「すぐに払います」と言ったところ、見知らぬ男は、家の外で話すように言った。ただならぬ雰囲気だった。

「前の会社を辞めてからもアルバイトをしていましたが、入院もしたので働くことのできない時期もありました。それで、とうとう行政関係の人が来て、どこかに連れていかれるんだと思いました」(藤野さん)

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背景に母親との対立