藤野さんの場合、寮での小遣いは月に3000円程度しか渡されず、携帯電話も使えなかった。インターネットの使用も制限されていた。寮生活では、午前中は小学生レベルの公文式のドリルをやらされ、廊下や入り口には監視カメラが備え付けられていた。施設のスタッフには退寮を求めたが、はぐらかされて認めてくれない。それで、藤野さんは決心した。

「脱走するしかない」

 決行したのは入寮から4カ月が経過した18年7月。仲間を募って、計7人で夜中に玄関から脱走した。その後、別の福祉施設に保護され、一時的に生活保護の支給を受けた。今では、就職先も決まって一人で暮らしている。

 施設側はどう考えているのか。同校の広岡政幸校長はこう話す。

「施設に入る前には、事前に説明し、納得をしてもらったうえで本人からサインをもらっています。プログラムは、いろんなものを取り入れている。公文式は一つのことに集中させる力などをつける目的でやっていましたが、現在はやっていません」(取材の詳細は、本文最後を参照)

 今回、藤野さんと一緒に施設を脱走した元入寮者にも取材ができた。その男性は対人関係が苦手で、長年ひきこもり生活を続けていたところ、親に入寮を促された。

「最後は『何か変えないと』と思って自ら入寮しました。でも施設では何もやることがなくて、『ここでは意味がない』と思って脱走しました。規則正しい生活習慣をつけるには良い場所だと思いますが、もっとちゃんとした施設に入りたかった」

 別の元入寮者の男性も親の依頼で入寮をすすめられたが、自宅で拒否し続けたところ、最後は「車まで連れていかれた」と証言する。別の男性は、「自分の育てたいように子供が育たないと考える親が、施設に入れる。『子捨て山』のようなもの」と話す。今回、元入寮者の親への取材について広岡氏を通じて依頼したが、広岡氏から「親たちは偏った取材には協力したくないと話している」とのことだった。

 なお、入寮時の手続きについて広岡氏は「保護をする時は、必ず自分でドアを開けさせて、自分でドアを閉めさせることにしています。荷物も自分で持たせます」と、本人の意思に反した入寮は行っていないと主張している。

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