「瀧本でございます。昨年7月に倒れまして講演を停止しておりました。しかし、世相が許しませんので、私はしゃべらないかんようになりました」

 会場に響きわたる大声は、病を得る前と得た後とで変わらないが、「言葉の関係で過ちを犯した場合はみなさんにおとなしく謝ります」と続けたのは、発語に際して引っかかりが残っているからだ。講演の内容も、話が飛んだり、前なら70年以上前の年月日とともにすらすらと語っていた戦場の具体的な風景が出てこなかったりと、たどたどしさはぬぐえなかった。得意としていた聴衆との当意即妙なやりとりもできなくなった。

 それでも、復活の報を知ってあちこちから講演の依頼が殺到。今夏も連日のように関西各地の学校や集会を回っている。

■「えらい人は責任を取りません」

 危機感の根源は安倍政権の動きだ。

 2013年 特定秘密保護法を制定
 2014年 武器輸出三原則の撤廃、集団的自衛権の行使容認の閣議決定
 2015年 安全保障関連法(戦争法)の制定
 2017年 「共謀罪」法の制定

 これらの動きに瀧本さんは「『ぜったいに戦争はやりません』という国から『いつでも戦争をやるぞ』という国になろうとしている」と断じる。

 今年7月の講演会。やはり瀧本さんは吠えた。

「今の世の中、政治の動きに対して危うさを覚えております。今は死んでも死ねないと思とります。今は死んでるどころじゃないんです。怒って怒って怒りっぱなしですよ」

 やりだまにあげたのは「赤坂自民亭」だ。

 7月5日14時、気象庁が「記録的な大雨」「厳重な警戒」を呼びかけた。午後10時までに京都・大阪・兵庫の約11万人に避難指示が出され、避難勧告も広がっていく。15府県で225人が亡くなった西日本豪雨のはじまりだった。そのさなかに開かれたのが、安倍晋三首相も出席しての自民党国会議員の懇親会「赤坂自民亭」だ。防衛相や法相ら政府や自民党の要職が酒をくみかわす写真が出席者によってツイッターに投稿もされた。

 これに瀧本さんが敏感に反応したのは、やはり戦時下の体験による。

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瀧本さんの戦時下の体験とは…