久保の良さは一瞬の判断スピードから迷いのない仕掛け、そこからの落ち着いたシュートだ。対面するブラジルの左SBはマルセロ。彼は守備での1対1に強さを見せるが、高いポジショニングからウイングと見まがうような攻撃参加でフィニッシュに絡む。当然、久保は守備の局面ではそのマルセロを抑える役割を担うが、攻撃に転じた時に前のスペースを使える余地は他のポジションより大きい。

 日本に好機があるとすれば、そのほとんどはボールを奪ってからのカウンターだろう。前日会見でチッチ監督はスタメンを予告したが、最終ラインは右からダニーロ、チアゴ・シウバ、ジェメルソン、マルセロという陣容。ここまで良好な連係を構築してきたCBのマルキーニョスやミランダではなく、モナコで成長著しいジェメルソンと、復調してきたチアゴ・シウバのセットをテストする方針を打ち立てている。右SBも主力のダニエウ・アウベスに代わり、ダニーロにチャンスを与えると明言した。

 これまで以上に組織的な守備を押し出すブラジルだけに、慣れないメンバー構成によって生じる一瞬の隙は日本にとって突きどころになるだろう。ハリルホジッチ監督は3日間の非公開練習で組織的な守備の植え付けだけでなく、カウンターを中心としたかなりの攻撃のパターンを伝授したようだ。その内容は定かではないが、おそらく前線の大迫勇也(ケルン/ドイツ)が少ないタッチのポストプレーで起点となり、左サイドの原口元気(ヘルタ/ドイツ)やトップ下での起用が予想される長澤和輝(浦和)が前を向いて仕掛ける。

「(ディフェンスを)1枚はがしたり、ボールを持ち運んでいくようなドリブルとか、そういうプレーは経験上必要になる」とは原口。そこに右サイドから久保がダイアゴナルの動きで絡む形がひとつの有効なパターンになるはず。また久保はストライカータイプの選手でありながらアシスト能力に定評がある。タイミング良くマルセロの背後を突ければ、速いクロスを大迫や原口に合わせるようなシチュエーションも作れるかもしれない。

 もちろん他の前線の選手も殊勲のゴールを狙っている。

「点を取るチャンスは絶対来ると思うので。現に前の(無得点の)試合もチャンスはあったと思う」と大迫が語れば、右サイドで久保とレギュラーを争う浅野拓磨(シュツットガルト/ドイツ)も「奪った瞬間、こっちの攻撃が開始された時に僕は常にそのスペースを狙っておかないといけない。どれだけ相手の能力が高くても常にそのスペースを埋めることはできない」とゴールへのイメージを膨らませている。

 ハリルホジッチ監督はかつて「1、2回のチャンスで決められるゴールゲッターを探している」と語っていたが、今回のブラジル戦はそうした資質を示す格好のチャンスだ。当然、選手にとっては今後のメンバー選考やスタメン争いに向けても大きなアピールとなる。

 ブラジルから殊勲のゴールを挙げる選手は現れるのか。まずはチームの内容と結果、さらに次のベルギー戦を含めた貴重な経験を残りの7カ月につなげることが重要だが、得点者も注目して見てみたい。(文・河治良幸)