ハリルホジッチは万全の準備をしていた。下がりすぎないラインを微調整させ、DF、MF、FWのラインをコンパクトに保ち、前線のプレスも相手CBのどちらかに蹴らせるように仕向け、ほとんど相手に攻めさせていない。ボールの出所を抑えながら、奪い取るゾーンを限定。奪い取った後のカウンターはスピードも強度も高く、リアクションフットボールの真骨頂だった。

 先制点も、縦パスをサイドから中寄りにポジションを取った原口がパスカット。長谷部誠→本田圭佑→原口と数秒以内につなげた。原口にボールが渡ったとき、日本は数的には2対7(GK含む)の状況だったが、敵の右SB不在のスペースを原口が駆け抜け、ポジション的優位を作ってゴールを奪った。

 試合を通し、戦術は旋回していた。その点は、ハリルホジッチの功績として評価するべきだろう。

 終盤、ハリルホジッチは交代が後手に回って、「勝てたのに」と非難を浴びた。しかし拮抗した展開では、天秤が不利に傾く恐れもあり、判断は簡単ではない。劣勢の中、チームは決定機を作っている。浅野拓磨のように技術、判断が明らかに拙い(2度のオフサイドは不用意、決定機も押し込めず)選手を起用しているのは問題だが……。

 試合に臨むまでの「戦略」の部分で、ハリルホジッチは下手なところがある。一方、ピッチ上に現れる「戦術」には一つの成果を上げている。受け身のカウンター戦術が日本人選手に合うか、というのはまた戦略的議論だろう。戦略と戦術という二つの軸で、一人の監督を正しく評価するべきだ。

「憎たらしい」という感情論では、日本サッカーが向かうべき道を見失うことになる。(文=スポーツライター・小宮良之)