AERA dot.

第40回 さまざまな染物

文・鈴木正晴

プロフィール  バックナンバー

このエントリーをはてなブックマークに追加

大型蒸し器に何メートルもある布を吊り下げ、高温で蒸しあげて色を定着させる

大型蒸し器に何メートルもある布を吊り下げ、高温で蒸しあげて色を定着させる

染料の量や力加減を駆使し、異なる条件下でも作品を一定に保つのが職人の技術

染料の量や力加減を駆使し、異なる条件下でも作品を一定に保つのが職人の技術

シルクスクリーンに使う型は、定番のものでは何十年も使われるものもある

シルクスクリーンに使う型は、定番のものでは何十年も使われるものもある

勝田ナセン EFUKiN(絵ふきん)赤セットの「果物」

勝田ナセン EFUKiN(絵ふきん)赤セットの「果物」

 前回に続き、勝田ナセンさんの手ぬぐいの話。

 手捺染(なせん)とは、穴の開いた「型紙」(実際は紙じゃないけども。昔は全部紙で作られていたんですね)の上から染料をこすりつけ、穴が開いている部分だけを染める方法。1色1回染めないといけないので、10色の手ぬぐいだとこの作業が10回必要になります。型紙を作るのももちろんコストがかかるし、10回「こすりつける」作業も、1回に比べると10倍のコストです。だからたくさんの色が使われているにぎやかな手ぬぐいは単価が高いのです。

 この染め方は、いわゆるインクジェットと呼ばれる、パソコンのデータをそのままプリンターで打ち出すような方式の「プリント」とは大きく違います。こする力、染料の量。職人ごとの癖。もっと言うと、その日の天気、湿度、温度。そういった条件によって微妙な違いが生まれてきます。

 勝田ナセンさんでも、熟練の職人になると、その日の湿度に合わせて、微妙に力の入れ具合や染料の分量などを調整して、「昨日となるべく同じように染める」ことができるそうです。どうやってるの、と聞いても、「なんとなく、わかっちゃう」。そんな答えしか返ってきません。

 そんな不安定なものなら、インクジェットの方がいいじゃんという意見もありますが、色に色を重ねて、人の微妙な力の加減が合わさり生み出されるのが、若手のミエさんがはまった「色の深み」なのです。属人的だからこそ自然に生まれるぼやけ具合やかすれ、それが自然に折り重なり、人の手によるものの温かみを生み出します。

 インクジェットの良さもあります。たとえばチームロゴなどの文字を染め上げたいときは、インクジェットであれば任せて安心。ぶれなく、同じものが何枚も出来上がってきます。また、型代も必要がありませんので、少量作る場合はコスト面でのメリットもあります。

 だけれども、勝田ナセンさんで見せていただいた“50版以上を使って作られた風呂敷”(職人さんがなんと50回以上、染料をこすりつける!)の、まるで油絵のような立体感がある色柄は、手捺染でしか生み出されない逸品です。

 ちなみに、同じ手作業の染め方で“注染(ちゅうせん)”というものがあります。これは手ぬぐいを何重にも折りたたんで、上から型をはめ込み、染料を注いで柄を出します。がちがちではない作り方なので、にじんだりぼやけたり。細かい柄を出すのなら捺染。ある程度大きい柄で雰囲気を出すのなら注染。それぞれの良さがあるんですね。

 今回ご紹介する商品は、ミエさんたち若手が中心となって作った手捺染の麻ふきん。その名も「EFUKiN」です。手捺染ならではのかすれ具合が楽しめる、上質な麻を使用したふきんです。毎日の生活が少し楽しくなる、そんなミエさんの思いがこもったデザインも当店では好評です。

 手仕事の良さを感じる一品、ぜひお手に取って確かめていただきたいものです。


(更新 2016/5/25 )


バックナンバー

コラム一覧

続きを読む

このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

鈴木正晴(すずき・まさはる)

 株式会社日本百貨店・代表取締役社長、ディレクター兼バイヤー。1975年神奈川県生まれ。1997年東京大学教育学部卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。アパレル関連の部門で、海外とのビジネスを多く経験する中で、国内の“モノ づくり”文化に根差したすぐれものをより広いマーケットに広める一助となりたいと考え、2006年3月伊藤忠商事を退社。2006年4月に株式会社コンタン(現・株式会社日本百貨店)を立ち上げる。2010年12月には東京・御徒町に、日本の優れものを集める小売店“日本百貨店”を オープン。食・雑貨・衣料雑貨など、全国から様々なこだわりの商材を集め、作り手と使い手の出 会いの場を提供している。著書に「日本百貨店」(飛鳥新社 2012/12)