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第15回 ニッポンヒャッカテン

文・鈴木正晴

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国産漆を使った浄法寺漆器

国産漆を使った浄法寺漆器

食洗機も使えるマルチロール漆

食洗機も使えるマルチロール漆

丸嘉小坂漆器店の工房

丸嘉小坂漆器店の工房

 日本百貨店の鈴木です。日本百貨店=ニホンヒャッカテン、と呼ばれることが多いのですが、正式名称は「ニッポンヒャッカテン」です。実はこの点、非常にこだわっています。

 日本百貨店には、いつか日本を代表して海外に出店するぞ!という野望があります。作り手と使い手の出会いの場をどんどん広げていきたい。それが国内である必要はありません。海外の人にもわかりやすい発音がいいのではと、国名の国際表記「NIPPON」と同じ、ニッポンにしました。

 未来のニッポン代表、ニッポン百貨店。今は国内での商売ですが、店舗には海外からの旅行客がたくさん遊びにきてくれます。そのため、海外の方々に対して“日本ならでは”のモノをどのように伝えていくかが、一つ大きな課題になっています。

 海外の方々にも伝えたい日本独自のもの、というと、職人技が光る非常に高価なものが多くなります。たとえば漆器。海外ではjapanとも呼ばれます。漆塗りは広くアジアで使われた手法なのですが、漆器と言えば日本!と思われているのですね。これも日本の職人たちが積み上げた実績に対する国際的な評価なのでしょう。誇らしい気持ちになります。

 日本百貨店で初めて仕入れた漆器は、岩手県の浄法寺漆器です。国産漆の約8割を生産する岩手県二戸市浄法寺町でつくられた純国産の漆器です。

 国産の漆器はたくさんあるじゃない、と思われるかもしれませんが、国内で漆器に使われる漆の実に98%は中国などからの輸入に頼っているのが現状です。残りわずか2%の国産漆の約8割が浄法寺産なので、希少価値が高いのです。

 本当にいいものを知ってもらいたいと思って仕入れた浄法寺漆器。確かにいいものです。見ているだけでつい触ってみたくなる。そんな不思議な魅力があります。

 しかし、それほど売れません。理由は簡単で、値段が高いから。いいものだ、ほしい、と思っても、漆器を買ったことがないお客さまがいきなり「これください!」と言える値段ではありません。おまけに食洗機や金属製のナイフ、スプーン類が使えないなど、取り扱いも難しく、毎日の生活に取り入れるにはハードルが高い商品といえるでしょう。

 もっと気軽に使ってもらって、漆の良さを体験してもらいたい。そこで次に仕入れたのが、「マルチロール漆」という新しい製法で作られた漆の器でした。漆は輸入もので、単価はぐっと安くなっています。遊び心のあるデザインや色で、食洗器も使える商品です。漆が輸入ものであっても、漆を塗る作業は、福井の熟練職人が行っています。ただし、生地と呼ばれるボディの部分は、木を削った器ではなく、木粉とメラミン樹脂で作られています。我々が伝えたい「職人の伝統的な技」という点は表現できているのですが、漆の持つ独特の艶という点では浄法寺には及びません。扱いやすさを重視したボディは、浄法寺に比べると重い。それぞれ持ち上げてみるとすぐにわかります。同じ漆器、同じ日本製でも、何を重視するかで大きく変わってくるのですね。良い悪いではなく、違う、ということです。

 そうして店頭には、スタンダードかつクラシックで高級な漆器と、手に取りやすく、毎日使える漆器の二つが並びました。さあ次は真ん中くらいの価格帯もそろえて……とはならないのがニッポンヒャッカテンです。

 今の生活様式にさらに近い形で、新しい切り口の漆器を提案できないか。それが次回ご紹介する、漆硝子「百色(ひゃくしき)」です。木曽漆器を原点とする、長野県塩尻市の丸嘉小坂(まるよしこさか)漆器店の製品です。


(更新 2015/7/ 8 )


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プロフィール

鈴木正晴(すずき・まさはる)

 株式会社日本百貨店・代表取締役社長、ディレクター兼バイヤー。1975年神奈川県生まれ。1997年東京大学教育学部卒業後、伊藤忠商事株式会社に入社。アパレル関連の部門で、海外とのビジネスを多く経験する中で、国内の“モノ づくり”文化に根差したすぐれものをより広いマーケットに広める一助となりたいと考え、2006年3月伊藤忠商事を退社。2006年4月に株式会社コンタン(現・株式会社日本百貨店)を立ち上げる。2010年12月には東京・御徒町に、日本の優れものを集める小売店“日本百貨店”を オープン。食・雑貨・衣料雑貨など、全国から様々なこだわりの商材を集め、作り手と使い手の出 会いの場を提供している。著書に「日本百貨店」(飛鳥新社 2012/12)

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