客席を巻き込む熱量に溢れたタランティーノ最新作『ジャンゴ』 |AERA dot. (アエラドット)

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客席を巻き込む熱量に溢れたタランティーノ最新作『ジャンゴ』

文・中島かずき

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 クエンティン・タランティーノ監督の『ジャンゴ ―繋がれざる者―』を見ました。
 今回はタランティーノ流マカロニ・ウエスタンです。
 僕も、小学生の頃にマカロニ・ウエスタンが大ブームだった世代。テレビでジュリアーノ・ジェンマやフランコ・ネロの映画を夢中になって見てました。特にジュリアーノ・ジェンマが好きでしたね。野沢那智さんの吹き替えも込みで。
 だから、開幕早々、『続・荒野の用心棒』の主題歌が堂々と流れるところでもう、1800円分の元はとった気分になります。タランティーノは、この曲を冒頭で流したいためにこの映画を撮ったんじゃないかと思いたくなるほど。
 この手があるなら『アリゾナ・コルト』って映画だってあるぞ、『リンゴ』って映画だってあるぞ。今、大スクリーンで『荒野の1ドル銀貨』や『南から来た用心棒』のテーマが流れたら、もうたまらないぞ。まあ『リンゴ』だと『続・荒野の1ドル銀貨』だけどな、などと、オープニングを観ているだけで妄想が止まりません。

 パンフレットで町山智浩氏が書いている、最近のタランティーノ映画が、アメリカの弱者の復讐を映画で果たすという見識は実に腑に落ちます。
『イングロリアス・バスターズ』の、歴史的事実を無視してユダヤ人レジスタンスがヒトラーを映画館で焼き殺すラストシーンを観たときには、最初はどう捕らえたらいいのか戸惑いました。
 ただ町山さんの文章か何かで、このシーンで映画館のユダヤ人客が「こんな場面が見たかったんだ」と快哉を上げるという話を知って、「そういうことか」と目から鱗が落ちました。
 今回の『ジャンゴ』は、南北戦争前、奴隷制も盛んな南部が舞台。奴隷だった黒人の主人公が、妻を取り戻すために賞金稼ぎになり、白人の悪党達をぶち殺していく。その姿に、映画館で黒人の観客達が拳を突き上げる。
 日本人の自分がその心情のすべてを理解できるとは言いませんが、ただ、観客に見たいものを見せるのもまたエンターテインメントの正しい姿だと教えてくれたのです。

 まあ、タランティーノの場合は、まず自分が見たいものを撮るって気もしますが。
 彼が、自分が見てきたジャンルムービーへの溢れんばかりの愛と知識をその作品に注ぎ込む姿は、いつものこととはいえすがすがしいです。
『殺しが静かにやってくる』かよ、『マンディンゴ』かよ、とオマージュする作品のツボを得ていること。
 大きな筋書きがわかっているとはいえ、悪役である南部の農場のどら息子、ディカプリオの屋敷に行ってから、いつどうやって最後の戦いが始まるのか、ずっとドキドキしながら見ていたので、まんまと映画の語り口にはまっていたのも間違いないですね。

 新宿ピカデリー、金曜日の午後の回。
 ジャンゴが、最初に賞金首を撃ち殺すところで、おばあさんが拍手していました。
 黒人奴隷が犬に食われるところで若いカップルが退出して、二度と戻ってこなかった。
 そんな客席も含めて面白かったです。

 ところでマカロニ・ウエスタンの主題歌としては『さすらいの一匹狼』が一番好きなんですが、これってジュリアーノ・ジェンマの主演作のテーマに流用されてませんか。『夕ばえ作戦』のテーマが『江戸の旋風(かぜ)』に流用されたように。
 子供の時にテレビでそんな映画を観た気がしたんですが、『星空の用心棒』かな『さいはての用心棒』かなと、それらしい映画を見ても曲は違う。僕の記憶違いだったのかなあ。


(更新 2013/4/ 4 )


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中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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