橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会が、国政進出にあたってまとめた公約集「維新八策」の最終版がこのたび出された。この中から「年金」のみを選んで、その変遷を見てみよう。3月に発表された「たたき台」はこうだった。
「現行の制度は一旦清算」「積立方式への移行」「資産のある人は、まずはその資産で老後の生活を賄ってもらう」。高齢者に喧嘩を売るような内容にもかかわらず、維新の会が高い支持率を維持している現状は怪異という他ない、とニュースキャスターの辛坊治郎氏は肩をすくめる。

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 この「維新八策のたたき台」(3月発表分)は、はっきり言って無茶苦茶だ。これに賛成する人は、掛け金をかけ始めて年数の浅い人か未納者だけだろう。現行の年金制度は、積立金残高が最大見積もって150兆円しかない。これに対して、掛け金の払い込みが済んで受給権が確立している分だけで、国が支払わなくてはならない年金額は、950兆円に上る。差し引き800兆円の債務超過だ。
 それが最終版ではどうなったか?

・賦課方式から積み立て方式に長期的に移行
・清算事業団方式による過去債務整理
・高齢者はフローの所得と資産でまずは生活維持

 最終版からは「リバースモーゲージ」(註)の項が削除され、「相続税」などの年金債務の具体的な償還方法が消えた。依然、高齢者に自分の資産を使って老後を過ごすことを提案してはいるが、現行の年金支給が止まる印象は相当に薄れ、負担増の部分についての言及はなくなった。
 さあ、これらの変化をどう見るか? やんちゃ坊主の戯言が実現性のある政策に進化したのか、それとも国政進出が現実のものとなって、理想を捨てて大衆ウケを意識し始めたのか。

註:7月に発表された「維新八策」改訂版にあった「高齢者には自宅を担保に借金して生活費に充ててもらう」という政策

※週刊朝日 2012年9月21日号