「私たちは、人類史上、最も“人間関係”の悩みが多い時代を生きているのではないか、と感じています」と話すのは、元自衛隊メンタル教官で、現在はカウンセラーとしてさまざまなクライアントを支援している下園壮太さん。
たしかに、人間関係の苦しさから逃れられず、悩んでいる人はとても多い。原始時代に比べたら、基本的に衣食住に困らず、とても生きやすい環境にあるにもかかわらず、だ。
なぜ、現代人の私たちは、人間関係に苦しむのだろうか。
著書『人間関係の疲れをとる技術』(朝日新書)を刊行した下園さんに、その理由と、悩みを減らすための方法を聞いた。
■「苦しみのシステム」が人間関係の疲れを増幅する
人間関係に限らず、もし「苦しみ」というものがなかったらどうなるか、考えてみましょう。
例えば「のどが渇いた」とか「痛い」などの「不快」がなかったら、私たちは、体の水分の低下も体のケガも知ることができません。「不快」は私たちに危険を知らせ、水を飲んだり手当をしたり、「快」につながる行動を起こさせてくれます。「苦しみ」にも役割があるのです。
原始時代の人間の苦しみを考えてみると、そのほとんどが、食料か安全に関するものだったはずです。人間関係はたまに登場するぐらいでしょう。
現代では、「安全」や「衣食住」については、命の危険を感じるようなことは、ほぼなくなっています。ほかの苦しみが少なくなっているぶん、「人間関係」についての苦しみが相対的に大きく感じられるのです。
そして、人間関係の悩みや苦しみは、水を飲めば終わるというように簡単に充足できるものではありません。愛や友情、信頼を勝ち取るためにはある程度の長い期間、行動をしなくてはならないし、しかも、相手があることなので、うまくいくとも限らない。
その結果、現代人の苦しみは、常に「人間関係の問題」になってしまいがちになるのです。
■苦しみを減らすポイントは「極端を避ける」こと
私たちは、人間関係の苦しみをゼロにはできません。ただし、減らすことはできます。重要なポイントは、「極端を避ける」ということです。
悩んでいる人は、「会社を辞めるか、辞めないか」「離婚するか、しないか」など、極端な「二者択一思考」に陥ってしまう傾向があります。誰もが、疲労が大きくなれば考えるエネルギーが出せなくなるし、エネルギーが低下しているうつ状態の人ほど、白黒をはっきりつけて苦しみをゼロにしたくなるからです。