山本「現行法では強姦は10年、強制わいせつは7年で時効となります。証拠が散逸したり、証人の記憶が曖昧になったりすることを考えてこの年数になったのでしょうが、被害者が子どもである場合はどうでしょう。6歳のときに強姦された子が、16歳になる前に被害を訴え出られるでしょうか。海外では、子どものときの性暴力被害を公にできるのは46歳になってからというデータがあります(刑事法ジャーナル2015 vol.45 p.100)。私もこれまで多くの当事者を見てきて、20代までは混乱のうちに過ごし、30代になってようやく少しずつ被害の現実に向き合い始め、整理ができるようになり、40代前後になってやっと人に打ち明けたり、公に発信したりできるようになるという実感があります。ドイツでは被害者が満30歳になるまで公訴時効を停止(刑事法ジャーナル2015 vol.45 p.99)し、時効はカウントしないと法律を改正しましたし、スイスでは12歳以下の児童に対して性犯罪がなされた場合には、時効を撤廃すると規定しました(刑事法ジャーナル2015 vol.45 p.115)。子どもへの性暴力における時効を撤廃しています」
今回の刑法改正案では、時効についての項目は含まれていない。
山本「性暴力被害は時間が経ったから終わるものではありません。時効を撤廃するということは、社会は性暴力をいつまでも監視し、追いかけ、過去のことにはせずに発覚した時点で逮捕して処罰するぞという強いメッセージを発していることでもあります。性暴力を許さないことで、すべての人が安心安全に暮らせる社会を提示する……いまの刑法改正の議論を見ていると、こうした強いメッセージを発する意志が欠けていると感じます」
同じく、社会が性暴力をどう捉えているかを示すうえで重要であるにも関わらず、今回改正案に含まれていない重要な案件がある。
山本「現行法では、暴行や脅迫があってはじめて強姦罪とみなされます。これが強制性交等罪になっても“暴行・脅迫”が条件として残ってしまうのです。多くの被害当事者が性暴力にさらされている最中に“フリーズ”という身体反応を経験しています。心身が凍りついて動けなくなる状態のことで、これは心理学・精神医学の研究でも明らかにされています。しかし裁判の場では“抵抗しなかったから暴行や脅迫はなかった”“同意があった”とされてしまうことが多いのです。さらに、暴行や脅迫を使わなくても女性に同意なき性交を強要することはできます」