「アダルトVRはあたかも視聴者自身が女性と触れ合っているような感覚が最大の売り物。だから没入感や臨場感が重要になります。しかし、VR映像の途中で編集が入ると非常に気持ち悪いのです。没入感が失われ、現実に引き戻されてしまう」(らくだ監督)
また、AVにはさまざまなジャンルがあるが、VRに向いているものと不向きなものに分かれる。
「VR向きのジャンルといえばまずは『主観モノ』。これはカメラが男優の目線で固定され、女優にあれこれしたりされたりする作品。また女性のダンスなどを眺めるような作品も適しています。一方で、いわゆる『絡み』は実はVRには向かない。男優が動いても、視聴者自身は動いていないわけですから、男優が激しく動くほど認識のずれが生じて没入しづらくなるのです」(らくだ監督)
冒頭の現場でカメラが男優の顔の前に固定されていたのはこのためだ。また、男優は一切動かず、声も出さないように演技指導されるという。
●「10回撮り直ししました」 NGが連発する理由
今のところ、VR作品の1シーンは15分程度。20分を超えてVR用のカメラを稼働させると熱がこもり、突然止まってしまう可能性があるからだそうだが、15分もの長回しは映画やドラマでなくとも非常に難易度が高い。出演者は段取りを徹底的に頭に叩き込む必要があり、記者が立ち会った撮影では、監督と女優たちが15分のシーンのために約1時間にわたって打ち合わせを行っていた。
冒頭のシーンに登場した女優・古川いおりさんはデビュー4年。これまで数多くの作品に出演してきたSODの看板女優のひとりだが、VRの撮影は挑戦の連続だという。
「作品を観ている人に向かって演技するわけですから、カメラを見つめなければだめなんですけど、やっぱり無意識に男優さんの顔をちら見しちゃったりします。これはもうNG。あと、VRのカメラは映り込む範囲がすごく広いので、立ち位置や姿勢にも気を使います。普通のAVより求められるものがすごく多い」(古川さん)
だが、もっとも難儀するポイントは別にある。AVで描かれるのはいわば模擬的な性行為であり、となると自ずと作品のクライマックスとなるのは男優のオーガズム。そのタイミングの調整こそがVR撮影における最大の難所なのだという。