「ほんまなら正月といえばお節とか、うまいもん食うてるはずやのに。それでもこの弁当が世間さんでいう“お節”という人もいるんや」
その後、店主と別れ、あいりん地区のメインストリーム、「三角公園」に向かった。すると、住民らしき人約50人が公園内に設置されているテレビを見ている。その様子はまるで高度経済成長期、大勢でテレビをみている人さながらだ。
三角公園前の路上では、2人組の男性が約20人の警察官に取り囲まれている。そのうちのひとりは、「ギャー、わぁー」と奇声を上げている。傍にいた警察官に何があったのか尋ねてみた。
「あぁ、ここではよくある喧嘩の類です。大勢で来ないとちょっと収拾つかなかったので……」
平然とこう応える警察官に、長年この町に住みついているのだろうという風が見て取れる50代と思われる男性が声をかける。
「今、東成かどっかで刑事課長しているあいつ元気しとう? 俺、あいつとここでは同期やねん」
「ああ、そうなん? 元気やで。あのひと西成署、長かったね」
「西成署で3年もおったらどこの署でも勤まるやろ?」
「そう言われてますね……」
まるで住民が警察官を育てているといった物言いだ。警察官に声かけした男性が家路につくという。彼と目が合った記者は、町を案内してもらいながら、彼の住む家までついていくことにした。
その家は、地元では「センター」と呼ばれる冒頭部で紹介した「あいりん福祉労働福祉センター」近くにある、いわゆる“福祉アパート”だった。敷金・礼金なし。家賃は月額3万9千円。Wi-Fiなどのインターネット設備が完備されている。この町では相場通りの家賃だそうだ。
「もっと安いところやったら月額3万5千円くらいやな。そういうとこはネットの設備がないねん。ドヤ、木賃宿なら1日800円、1週間で4000円のところもあるけどいつも満杯や」
関西の中堅私大を卒業、法学部だったという彼は、「生活保護を受けて10年以上になる。一度、保護を受けると働く気がなくなった」と自らの心境を吐露した。
だが、彼のように「帰る場所」や「寝る場所」がある人はいい。行政の庇護に頼らず生活保護を受給することを是とせず、自力で頑張っている人たちは寒空の下で布団や段ボールを敷き野宿を余儀なくされている。夜になると気温は3度くらいにまで冷え込むという。