自前のストーブを持っていたり、登山用の寝袋がある者はまだ恵まれている。しかし、寒さを凌ぐための段ボールの調達すらできない者は「センター」横で布団を敷くだけだ。

「段ボールの囲いをして寝ていい人、いけない人が暗黙のうちにこの町では決まってるんや。それを知らんかったら布団も服も仕事道具を取られても文句はいえん」

 今年65歳になるという元日雇い労働者のホームレスは、この町のモラルはもちろん法も通用しない善悪を超越した秩序をこう述べた。記者を大阪市職員と勘違いしたこのホームレス男性が語気を荒げた。

「お前ところの市長か。吉村に言うとけ! (元首相の)菅直人は俺らのところまで足を運んでくれたぞ。一度、あいりんに来てみ。なんで60歳超えて野宿して寒いなか“立ちション”せなあかんねん。マンホールをトイレ替わりにする市民の現実を見晒せ!」

 実のところ、あいりん地区では年末年始、トイレの問題が深刻になっている。ホームレスたちが集う「あいりん福祉労働センター」が休みに入っていることから公衆トイレの使用を余儀なくされる。

 だが、公衆トイレは三角公園近くのそれと、公園に設置された3か所しかないという。数多くのホームレスが寝泊まりする同センターから歩いていくには5分から10分程度かかる。そのため、マンホールや公園フェンスの一角をトイレ替わりに使用しているというのだ。

「あのマンホールは“小”用、あっちのマンホールは“大”や。寒いなか、真夜中に尻出して排せつするんや。70歳超えたおじいちゃんなんかトイレまで持たず失禁することもしばしばやで」

 真夏に記者があいりん地区に訪れた際とは異なり、年末年始のここはアンモニア臭が鼻にこびりつき、何時間たってもそれは取れる気配がない。

 これが厳しい状況にある「あいりん地区」の現状を思い起こさせる。社会全体が機能しない年末年始だからこそ垣間見えた「西成」の現実がそこにはあった。

(フリーランス・ライター・秋山謙一郎)

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