インタビューに答える古谷一行さん
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古谷一行さん演じる金田一耕助
古谷一行さん演じる金田一耕助

「犬神家の一族」、「八つ墓村」などの横溝正史シリーズに登場する、稀代の名探偵、金田一耕助。様々な作品が何度も映画化され、テレビ版も複数あるので、金田一耕助を演じた俳優も多くいる。古くは片岡千恵蔵や石坂浩二など。最近では豊川悦治や稲垣吾郎も演じている。意外なところでは高倉健や渥美清、西田敏行らも金田一耕助に扮しており、その時代を代表する名優たちの名がリストに連なっている。

 そんな中で、ひときわ多くの人の記憶に残っているのは、1970年代後半に放映された「横溝正史シリーズ」、80年代前半から約20年にわたって放映された「名探偵 金田一耕助シリーズ」に登場したこの人、古谷一行演じる金田一耕助ではないだろうか。

 この度、この両シリーズ全47作品のDVDが朝日新聞出版から『横溝正史&金田一耕助シリーズ DVDコレクション』として発売されるにあたって、古谷一行本人が、出演に至った経緯や金田一耕助のキャラクターづくり秘話をインタビューで語っている。

*  *  *

──ご出演までの経緯を教えてください。

お話をいただいたとき、同じクールに始まるドラマ「新選組始末記」の出演(土方歳三役)がすでに決まっていまして、「新選組」の撮影は東京、「金田一」は京都でしたから、両方やるのは難しいと思い、「新選組」のプロデューサーに相談しました。すると、「やれよ、古谷くん」と快く背中を押してくださり、それで両方に出演できることになったのですが、東京と京都との往復で、当時は忙しかったですね。

──それまでに横溝作品をお読みになったことはあったのですか?

まったく読んでいませんでした。お話をいただいたときは、金田一耕助という探偵の存在も知らなかったと思います。原作を読んだのは、出演が決まってからでしたが、読み終わったとき「自分にははまらないのではないか?」と、役者としての不安を感じましてね。撮影で京都へ行っても、「このまま東京へ帰りたい……」と思ってしまうほどでしたね。
僕はそれまで、メロドラマというか、男と女の愛を演じることが多く、そういった意味では解放された、金田一のような自由なキャラクターは、やりにくく、難しいなと感じていました。

──そんななかで、古谷さんなりの金田一耕助像は、どのように創られていったのでしょうか?

撮影に入る前に何度か京都へ行き、「犬神家の一族」の工藤栄一監督と、どんな金田一を創っていこうかといろいろ話し合いました。それと前後して、当時、仲の良かった俳優の原田大二郎と、「古谷一行の金田一耕助」についての話をしましたね。その席で、金田一が複雑な事件の謎を解こうとするとき、まったく関係ないことをする。たとえば、ギターを弾いてもいい。そんなときに、フッと素晴らしい推理がひらめくような、独特な何かがあったらいいよなあ……と話しました。それを京都へ行って工藤監督に提案したら、ギターや知恵の輪など、いろいろなアイデアが出るうちに、工藤さんが「キミ、逆立ちできる?」と尋ね、僕が「できます」と答えた。そしてあの冒頭シーンが生まれました。
あの頃は若かったので逆立ちで歩いたりもしていましたが、歳を取るごとにきつくなっていき、最後のほうは壁に足をつけて逆立ちをすることで勘弁してもらいました。

──古谷さんの金田一は、とても人間的で、親しみやすいと感じます。

それは僕のキャラクターもあるかもしれませんが、それぞれの監督たちが創り上げた結晶でしょうね。工藤監督は、走ったり、逆立ちしたりというダイナミックな金田一を、「本陣殺人事件」の蔵原惟繕監督は、人への癒しとか優しさを前面に出した金田一を創ってくださいました。それに「獄門島」の斎藤光正監督、「悪魔の手毬唄」の森一生監督などが、自分なりの思いを金田一に加えていった。そういうものが総合的に重なり、人間的な、親しみやすいキャラクターに成長できたのだと思います。

──シリーズは高視聴率を記録し、「金田一といえば古谷一行」というイメージが定着しました。

ブームの下地を作ったのは、やはり市川崑監督と石坂浩二さんの「犬神家」ですよね。僕らはテレビでしたから、家庭に入っていくために、より親しみやすい金田一を創りました。難事件に首を突っ込みながら解決に導く、最後は心穏やかに、フッと風のように去っていく……。そんな金田一が受け入れられたのでしょう。
番組がヒットして、僕なりの金田一像も固まり、「あ、いいな。これは俺の役なんだ」と思えるようになったのは、5作目の「獄門島」の頃からでしたね。

──古谷さんにとって金田一耕助役とは?

当初「無理だな」と思っていた役者としてのコンプレックスがひっくり返り、それが代表作になったわけですから、役者として一皮むけるためのきっかけとなった、とても大切な役ですね。

──最後に、読者のみなさんへのメッセージをお願いします。

横溝さんの原作には、人間の心の底にある陰の部分、嫉妬や怨念といった普遍的なテーマがあると思います。その原作を、一流の監督、一流の役者さんたちが、ドラマにしました。僕はそんなみなさんとご一緒できたことを誇りに思っていますし、その魅力は色あせないものだと感じています。若い世代の方々にも、ぜひ、楽しんでいただきたいですね。

【関連リンク】
隔週刊『横溝正史&金田一耕助シリーズ DVDコレクション』
http://publications.asahi.com/kindaichi/