予測不能で不連続な変化が起こる21世紀。我が子を、この時代を生き抜くことのできるたくましい人材にするには、幼少期からの十分な、それに相応しい教育が必要だ。

 東京大学医学部を卒業し、外資系金融機関勤務後、息子の小学校受験を通じ、お受験業界の前近代性に気づいた石井至氏は、このお受験業界にビジネスとして参入した。石井氏は本書『慶應幼稚舎と慶應横浜初等部』(朝日新書)において、この未曾有の時代に注目を集めている「慶應義塾横浜初等部」に焦点を当て、日本一の知名度と人気を誇る私立小学校「慶應義塾幼稚舎」と比較しながら、その思わず唸るほどの巧妙な生き残り戦略を解析する。

 両校とも慶應義塾大学の附属小学校にあたるが、慶應幼稚舎は2014年に創立140年を迎える、日本で最も古い私立小学校の一つだ。歴史が長いだけではなく、日本に213校ある私立小学校のなかで最も人気がある。しかし、2013年4月、その幼稚舎に強力なライバルが現れた。それが「慶應義塾横浜初等部」だ。

 慶應幼稚舎出身には、様々なメリットがある。それ故、慶應幼稚舎合格者の中で、入学を辞退するという人はほとんどおらず、辞退者数0という年もあるぐらいだ。そんな中、2014年度入試では、慶應幼稚舎の入学を辞退し、慶應横浜初等部に進学するという子どもがいたという。慶應幼稚舎を蹴ってまで入学する慶應横浜初等部の魅力とは一体なんなのか。

「慶應幼稚舎では『まず獣身を成してのちに人身を養う』という福澤諭吉の言葉から、勉強よりは体力重視という教育方針を採用している」と石井氏は本書の中で述べている。この通り、幼稚舎では勉強を熱心に教えない傾向がある。その結果、幼稚舎出身の子供が普通部や中等部に上がったときに、九九を言えなかったり、分数の計算ができなかったりして、数学で赤点を取ってしまい、最悪の場合、中学を中退するといったケースも少なからずあるというのだ。

「『アリとキリギリス』の夏のキリギリスさながらに、楽しい小学校生活が過ごせる反面、落ちこぼれさえしなければ、慶應大学までたどりつけるという『ぬるま湯』的な進学条件ですらクリアーできないというケースも生じている」(本書より)

 このような実態をもとに石井氏は「横浜初等部は慶應幼稚舎の問題点を克服すべく作られた、いわば『アンチテーゼ』を提示する小学校ではないか」と指摘する。

 業界の現状をよく知るお受験のプロが明かす、知られざる真実の数々。本書はさらに、慶應幼稚舎・横浜初等部の入学試験、両校への合格の秘訣、また、慶應幼稚舎の卒業生の今などを紹介している。

 子どもの小学受験を考えている方、そして子どもを慶應に入れたい方や慶應出身者の方も、ぜひ読んでほしい内容だ。