日本野鳥の会によると、日本に来るツバメの数が減っているのは、エサ場である水田や巣作りができる日本家屋の減少、天敵であるカラスの増加などのためだという。しかし早稲田大学国際教養学部教授の池田清彦氏は「大きな要因はもっと他にありそうだ」と次のように指摘する。

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 ツバメの数が減少しているという。確かに八王子市高尾の自宅の周りでも、今年はツバメを余り見かけない。毎年必ず利用されていたツバメの巣も今年は空のものが目立つ。

 親ツバメは去年と同じ巣を利用する確率が高いが、旅の途中で死んでしまうことも多いわけで、日本国内の事情だけを考えていても、個体数減少の正確な原因は判らない。ラオスやタイなどではツバメをトラップで捕獲して食べているので、捕獲数が多くなれば、日本に渡ってくるツバメの数は少なくなる。

 しかし何といっても私見ではツバメ減少の最大の原因はエサである昆虫が減ったことだろう。エサ場である水田の減少というが、エサ場があってもエサが無ければどうにもならない。昆虫減少の最大の原因は農薬である。石川県立大学教授の上田哲行によれば、イネの苗箱処理剤により、日本の代表的なトンボであるアキアカネが壊滅的な打撃を受け、半数以上の府県で、2009年時点の個体数が1990年の千分の一以下に激減したという。ツバメ減少の比ではない。こういった水田の昆虫の減少がツバメ減少の大きな要因のひとつであることは間違いないと思う。もうひとつ、農業用からペットのシラミやノミ駆除、スプレー殺虫剤、化学建材などに広く使用されているネオニコチノイド系の農薬の影響も大きい。この農薬は哺乳類には弱毒だが、昆虫に対しては強毒なのだ。害虫を減らしてツバメだけ増やそうというのは虫が良すぎるよね。

※週刊朝日 2012年6月22日号