府知事時代、コストカッターとして鳴らした橋下徹氏が、大阪市長として最初に選んだターゲットは意外にも、市役所では地味な存在に過ぎない市バスの運転手だった。
「大赤字なのに、1千万円近い年収をもらっている職員がいる」と交通局の腐敗を訴え、職員給与の4割弱のカット案を打ち出したのだ。大阪弁護士会に属し、市の労働問題に詳しい大前治弁護士がこう解説する。
「交通局の正職員の年収は平均で約730万円と確かに高いが、これは勤続14年以上の正職員だけで、現在は10営業所の半分を民間へ業務委託しています。制服を着ていても民間からの派遣運転手の年収は200万~400万円と低く、市役所では弱者です」
現在、民間の業務委託で市バスの運転手をしているAさん(49)は10年前から給与が上がらず、基本給約17万円の据え置きでずっと働いている。Aさんは言う。
「それでも、お客さんから『あんたらええご身分やな』と言われるのでつらいわ。給与をカットされるので、多くの仲間がやめ、人手不足に陥り、今では休みも抽選や。みんなは疲れ切り、いつか大きな事故が起こると思う。最近、ある営業所の運転手がこれからローンが払えなくなる、と投身自殺したと聞いた」
府知事時代に橋下氏は「2012年度以降、10年間は約500億円の通常収支不足が見込まれる」と大阪市の厳しい財政状況を試算した。これを受け、「グレートリセット」と銘打って5月11日、市民サービスの大幅カットや職員人件費の削減、市外郭団体への事業発注の見直しなどを断行し、今年度から3年間で最大1700億円の削減を目指す市政改革プランを発表した。
しかし、この試算ほどの財政悪化はしていないと公明党の土岐恭生大阪市議は話す。
「橋下市長は後に改革の成果を強調するため、市民に財政を悪く見せておきたかったのでしょう」
悪い見通しを見せておいて、結構いい数字を残す。これこそ「橋下トリック」なのかもしれない。
※週刊朝日 2012年5月25日号