落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「緊急事態」。
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「わー。普通の人が入ってきちゃったのかと思ったっ!?」。4月17日朝6時40分、ラジオの生放送に出演すべくスタジオに入った私に、放送作家T氏から投げ掛けられた一言。その後、私を指さしてみなでゲラゲラ笑い続ける。「ホントだー。一之輔さん、全然普通の人になっちゃいましたねーっ! ゼロですね! ゼロマンっ!」
私「なんですか!? 失敬なっ!!」
一同「わー、声も張りがないですねー!」「カスカスですねー!」「出汁ガラみたいですねー!」「まるで懲役から出てきたお父さんか、千日行を終えてきた僧侶のようですなー!」
ようは落語家としての、パーソナリティとしての、エンターテイナーとしての『オーラ』がまるで感じられなくなったということらしい。言ってくれる。言ってくれるよ、ニッポン放送め。君たちが言うようなそんな「おが屑人間」に『あなたとハッピー!』なんてストレートポジティブハートフルネーミングな番組が務まるわけがないですよ。わかりましたよ。
私「もう帰ります!」
一同「いやいやいやいやいや、まぁ『いい意味』で。脂っ気が抜けたということで!」
便利な言葉だな、『いい意味で』って。まぁ、たしかにここのところお日様を浴びていないからか、どうも顔が青白くカサつく。剃る必要もないので無精髭。動いてないのでおなかが減らない。スマホばかり見ていて目がショボショボする。抜け毛も増えた気がするし、口臭もきつくなったか。膝も軋むし、腰も曲がってきた。杖をついて、ボロを身に纏っている。42歳にしておじいさんの趣。一休禅師の肖像画にちょっと似てきた。あとは時に身を任せ寿命を待つばかりといった風情。「死にとうない」。
これは明らかに「人前で喋ってないから」ですね。
落語家として緊急事態ということで本息(ほんいき)で落語を喋らねばと思い考えました。子どもたちの前でやろうとしたら「僕たちマリオカートやるからゴメン」とやんわり断られ、家内の前でやろうとしたら「お金になるところでやるべき」との正論を頂戴し、ならばというのでちょっとありきたりですが……。