稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
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毎食こんな感じなので投稿しても何の反応もなくなり、1人静かに食べるのみ(写真:本人提供)
毎食こんな感じなので投稿しても何の反応もなくなり、1人静かに食べるのみ(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【稲垣さんの家メシの写真はこちら】

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 長期戦、らしい。考えたくもないが考えなきゃいけないことがありすぎて全く追いつきやしねえ。なので今回も暮らしのマメ知恵を書く。

 ステイホームと言われて以来、我がFBに「今日の家のご飯」投稿が増えた気がする。SNSに於ける料理自慢ブームは去ったと思っていたが……いや投稿者には自慢などという下心はなく、不自由な中でも楽しみは見いだせるという前向きなメッセージに違いない。だが老婆心ながら、リモートワークと休校で連日の食事作りに追われまくっている人が「いいね」を押しつつ劣等感なんぞ抱いてないかと心配だ。そのくらい華麗なんである。想像するに、外でバリバリやっていた人が家に閉じ込められると、封印されたエネルギーが料理へ向かうのだろう。かつて同じことをしていた私にはよくわかる。

 もちろんそれが趣味ならそれで良い。だが5年前から昼も夜も家メシを食べ続けている先達としては声を大にして言いたい。家メシに華麗さなど不要。今や我がメーンのおかずは毎度「味噌汁・大」だ。余った食材をブッ込むので日々バリエあり。食材ロスなし。今日のご飯は何にしようと悩む余地なし。買い物を3日に1度にするには3日分の献立を決めよと新聞に書いてあったが3日後に何を食べたいかなんて想像できんよ普通。ならば我らがソウルフード味噌汁で間違いない。健康的。経済的。何より家族全員誰でも作れる。自分で作った飯が不味いだのワンパターンだのと文句を言う輩はいない。平和。言うことなし。

 そして何よりも、外へ向かう力が封印された今こそ自分の内なる力をみつける大チャンスなんである。といってもハンドパワーとか超能力とかじゃないよ。自分が何を美味しいと思うのか、より豪華なもの、より派手なものを追うあまり、連日の一杯の味噌汁に極上の幸せを感じる能力を無視していたと気づいたらどうなるか。人生を豊かにするものは既に自分の中にあったと知ることは、ひと財産築くほどのパワーがあるのだと先達として申し上げておく。

AERA 2020年5月18日号