緊急事態宣言中に産経新聞記者、朝日新聞社員らと賭けマージャンに興じ、辞任した黒川弘務検事長。黒川氏と記者らの行為はともに許されないが、問題はその行為だけではない。横紙破りの閣議決定と法改正で、自らにとって都合のいい人事を押し通そうとした安倍政権への不信感は決して消えない。AERA 2020年6月1日号で掲載された記事を紹介する。
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「安倍首相は、あの閣議決定をどうやって取り消すつもりだろうか」
永田町では今、そんな話題でもちきりだ。安倍政権は、黒川弘務・東京高検検事長が退職すれば公務の運営に著しい支障が生じるとして、これまでの法解釈をねじ曲げてまで定年後の勤務延長を決める閣議決定を推し進めた。今回の検察庁法改正案は、この閣議決定を後付けで法体系化する狙いがあった。
森雅子・法務大臣は国会で、閣議決定の必要性を何度もこう答弁してきた。
「重大かつ複雑困難事件の捜査公判に対応するため、検察官としての豊富な経験知識等に基づく管内部下職員に対する指揮監督が不可欠と判断した」
では、黒川氏が霞が関を去った今、検察庁内で公務の運営に著しい支障が生じているのだろうか。ある法務官僚は語る。
「最初からそんな事例はなかったんです。事実、内閣が黒川氏の辞任を受け入れましたが、それによって、公務の運営に著しい支障が生じていないじゃないですか。あの説明はなんだったのか、法務大臣も首相も国民に説明する必要があります」
突然の黒川氏辞任劇は永田町を揺るがした。ある自民党幹部は断言する。
「もう、政権は持ちませんよ。官邸がやれというから、強行採決を辞さない構えで、むりくり、法案を通そうとした。そもそも、総務会でも反対する人はいても、積極的に賛成する人は少なかった。この混乱の責任を法務省に押しつけても、国民は誰が戦犯なのか分かっていますから。もちろん、自民党の議員も分かっています」
火に油を注いだのが安倍首相の側近である世耕弘成・参院幹事長の発言だ。