


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【写真】映画「ワイルド・ローズ」の場面カットと「もう1本おすすめDVD」はこちら
* * *
47歳の若さで亡くなった伝説的ミュージカル女優ジュディ・ガーランドの、シングルマザーとして苦悩した人生の最後の一ページを描いた映画「ジュディ 虹の彼方に」(2019年)。同作にジュディを支えるマネジャー役で出演したジェシー・バックリーが、主演最新作「ワイルド・ローズ」では、カントリーシンガーを目指すシングルマザーを演じる。物語の舞台はスコットランド最大の都市グラスゴーだ。
「撮影4カ月前からグラスゴーに住み、地元のなまりで話す生活を始めた。ローズのつもりでカウボーイブーツを履き、街を歩いた。あの街にある、人を温かく受け入れる独特の雰囲気を思い切り肌から吸い込もうとした」
映画は主人公ローズが刑務所から出所するシーンで幕を開ける。10代で2児の母となったが、カントリーミュージック発祥の地ナッシュビルで歌手として成功する夢は捨てていない。猪突(ちょとつ)猛進型のローズは、支えてくれる母や子どもたちに迷惑をかけることもある。
「ローズは間違いを犯すし、自己中心的な面もある。でも、欠点のあるキャラクターほど好き。完璧な人間なんていないし、欠点を隠さないことでリアルに演じられると思うから。彼女が完璧だったら面白くないでしょう」
やがて、職場で知り合ったスザンナの援助で夢がかないそうになるのだが……。
「この映画はグラスゴーへのラブレターなの。遠くナッシュビルに行って、ローズはふるさとを発見し、自分を発見する。過去や自分のアイデンティティーを消去することはできないと気がつくの」
グラスゴーの個性的な音楽スポットが垣間見られるのも楽しい。
「クラブのシーンを撮影したグランド・オール・オープリーという会場は、外側からはさびれた集会所にしか見えない。ところが中に入ると、アメリカ西部がテーマの決してうまいとは言えない壁画があり、普通のお客さんに交じって全身カウボーイ衣装の人がいたりする。週末はタレントショーやラインダンスのイベントもある、驚きのスポットなの」
最終的に自分を見つけたローズが、自信いっぱいに歌う主題歌「GLASGOW」は感動的だ。オペラ歌手を目指していたというハープ奏者の母と、ジャズ好きの父の間に生まれ、「音楽があふれる家で育った」というジェシーは、元は俳優ではなく音楽の道を目指していた。その才能が光る。