つるや/うな重は鰻の大きさによって、2750円から4950円まで5種類ある。写真は真ん中で3850円(税別) (撮影/写真部・加藤夏子)
つるや/うな重は鰻の大きさによって、2750円から4950円まで5種類ある。写真は真ん中で3850円(税別) (撮影/写真部・加藤夏子)
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今の建物は55年ほど前に造られた。1階はテーブル席、2階は座敷だ (撮影/写真部・加藤夏子)
今の建物は55年ほど前に造られた。1階はテーブル席、2階は座敷だ (撮影/写真部・加藤夏子)
鎌倉彫の重箱。作家・村松梢風(村松友視氏の祖父)がデザインしたもの (撮影/写真部・加藤夏子)
鎌倉彫の重箱。作家・村松梢風(村松友視氏の祖父)がデザインしたもの (撮影/写真部・加藤夏子)

 今もまだ残る古き良き店を訪ねる連載「昭和な名店」。今回は鎌倉市由比ガ浜の鰻屋「つるや」。

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 身は格段に柔らかい。タレはサラサラとしていて、しょっぱくもなければ、甘さも控えめ。実に品の良い鰻だ。

 3代目店主の河合吉英さんが、笑いながら語る。

「うちのお客さんは、文化人が多かったからね。初代は戦時中、『空襲のときはタレだけ持って逃げろ。タレさえ無事なら、なんとかなる』と言っていたそうです」

 初代の太吉さんが鎌倉の由比ガ浜に出店したのは、1929年。界隈は別荘地のうえ、転居してきた文化人も多く住んでいた。上品な味は、彼らを魅了した。

 川端康成もその一人。この店では注文を受けてから裂くうえ、蒸し時間が長いので、提供するまでに1時間近くかかることもある。

「先生は、隣にあった茶道具店で骨董品を見て待ってくださいました。晩年は出前が多く、私もお届けにあがったことがあります」

 女優の田中絹代は毎週一度は通い、2代目夫人との世間話も楽しんだ。東京で入院中に、タクシーを駆って食べに来たこともあるという。ゴルフ帰りに寄ったのは、評論家の小林秀雄。著書『本居宣長』にサインを入れて、プレゼントしてくれた。

 鎌倉文化人が好んだタレは、継ぎ足しで今も味わえる。

(取材・文/本誌・菊地武顕)

「つるや」神奈川県鎌倉市由比ガ浜3‐3‐27/営業時間:11:30~19:00/定休日:火曜(祝日の場合は営業)

AERA 2020年7月31日号