「昨今見かけないプログラムピクチャー。コンプライアンスとは無縁に生きる大人の御伽(おとぎ)噺です」という最新作『一度も撃ってません』のラストシーンは神田駅ガード下。
「伝説の殺し屋だけど、“実は一度も撃ってません”という可笑(おか)しみを感じてくれれば」
上京して40年以上になるが「本当に良いものを目指すのであれば、監督業の半分はスタッフとのやり取りです。スタッフに担がれなければ。担いでやろうと思われなければいけない。でも、監督の醍醐味は自己満足を追求できること。それにしても、撮影が終わった時のスタッフの達成感ある顔を見ると良い職業を選んだなと思う」と笑った。
「コロナ禍の中で、映画の作り手たちは何をしたいのか、何をせねばいけないのか、考えていると思う。一周回って、遠回りして戻ってきて、自分が観せたいものを観せる。こういう辛い時期だから喜劇でもいいんじゃないかとか、そんな自問自答を繰り返しているはず」
かつての阪本監督のように志を抱いた若者が今も東京に集まってくる。この街が生き生きと復活する日を待つことにしよう。もうしばらく、今は耐え時なのかもしれない。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。国文学研究資料館・文化庁共催「ないじぇる芸術共創ラボ」委員。小説現代新人賞、ABU(アジア太平洋放送連合)賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞
※週刊朝日 2020年8月14日‐21日合併号