


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【写真】中村倫也「人数の町」の場面カットと「もう1本 おすすめDVD」はこちら
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荒木伸二監督による映画「人数の町」は、第1回木下グループ新人監督賞・準グランプリを受賞したオリジナルストーリーだ。
ある日、借金取りから暴行を受けていた蒼山(中村倫也)は、黄色いツナギを着た男に助けられる。男に「居場所」を用意してやると言われ、ついて行った先は、ある奇妙な「町」。そこでは指定された簡単な労働と引き換えに、衣食住が保証されていた。享楽にふけるも自由。社会的なしがらみも不安も存在しない。自由と平等を標榜(ひょうぼう)する世界は一見、理想郷のようだったが……。
荒木監督は数々のCMやMVを手掛ける一方、「いつか映画を撮りたい」と2010年頃からシナリオを学び始めた。思いついたネタは自身が「味噌(みそ)帳」と呼ぶネタ帳に書きためては“発酵”させ、脚本を書き、さまざまなシナリオコンクールに応募。受賞を重ねながらも、肝心の映像化には辿りつかなかった。
「行き詰まっていた時に、脚本が映画化されるという木下グループ新人監督賞を知りました。絶対に賞を取りたい。でも第1回だし、何をすれば勝てるのか。誰が見ても納得できる強いネタはないかと味噌帳を見返したんです」
目についたのは、「東京から人がどんどんいなくなる。どこかの町へ連れて行かれて何かに利用されているのか」というメモだった。
怖いものがあれば映画が撮れる──。スティーブン・スピルバーグのその言葉に照らすと、荒木監督にとって怖いものは、幼い頃から名前のある人間が「人数」に変わることだった。ナチスは生身の人間たちの集団を、効率よく殺すための「人数」におとしめた。だが、今は人間をそんなに追い込まなくても「人数」に変わってしまうかもしれない。ニコニコと笑いながら、楽しそうに、自分から「人数」に成り下がるのではないか。意思や希望、信念、愛などを捨てて、中にさえ居れば気持ちがいい「人数」という塊に簡単に入ってしまうのではないか。数行のメモを基にそんなグロテスクな塊を描いた。