「コンビニ百里の道をゆく」は、51歳のローソン社長、竹増貞信さんの連載です。経営者のあり方やコンビニの今後について模索する日々をつづります。
【写真】全米オープン女子シングルスで優勝し、トロフィーを手にする大坂選手
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テニスの大坂なおみ選手が全米オープン(OP)で全くブレを感じさせないプレーで、2年ぶり2度目の優勝を果たしました。今大会で大坂選手は、警官たちの暴行で犠牲になった黒人の名前を記した7枚のマスクを着けてコートに現れ、そのことでも注目を集めました。
米国では今、反人種差別を訴える「ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命も大切だ)」運動が広がっています。大坂選手の「私はアスリートである以前に、一人の黒人の女性です」という言葉や7枚のマスクについて「みんなに考えてもらいたい」と話したことは、彼女の素直な気持ちだと思います。7枚のマスクを持ってきたということは、必ず決勝までいくということ。そしてその言葉どおりに勝ちきりました。
一度コートに入れば、1人で戦わなければなりません。これまでの試合以上に、とんでもないプレッシャーを感じたはずです。以前は1セットでも落とすと精神的な動揺が見られましたが、今大会は違いました。決勝では第1セットを落としたものの、すぐに気持ちを立て直し、我慢のプレーを重ねて逆転。大成長を遂げた彼女の姿に、言葉の重みと強さを感じました。
それと同時に、自分が正しいと思ったことを、まっすぐ前を見据えてやり抜いた彼女の純粋さと強さにも衝撃を受けました。自分が人として大事だと思うことを、どんな局面でも持ち続けながら生きていくことは大変です。そして大事に思うことを持ち続けるには、自分自身が強くなければなりません。また、人として強くあることは、自分を大事にすることにもつながると思います。
今年の全米OPでの大坂選手を通し、人としてどう生きていくのか、ということを改めて考えさせられました。まさに、彼女からの強烈なスマッシュでした。
竹増貞信(たけます・さだのぶ)/1969年、大阪府生まれ。大阪大学経済学部卒業後、三菱商事に入社。2014年にローソン副社長に就任。16年6月から代表取締役社長
※AERA 2020年10月5日号