現代日本に生きるトランスジェンダーに光をあてたドキュメンタリー映画「I Am Here ─私たちはともに生きている─」が公開中だ。自身も当事者である浅沼智也さんが監督した。AERA 2020年10月26日号から。
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「どんだけ戸籍を男にしても、自分は元女だって言い続けて処置を受けるだろうなと思ったから、戸籍を変えるのをやめました」と話す人もいれば、「(性別適合手術を受けて)やっと女性の体に戻れたということが、本当にうれしかった」と語る人がいる。映画「I Am Here ─私たちはともに生きている─」に登場する人たちの言葉だ。この映画は、20代から70代まで、17人の性同一性障害(GID)やトランスジェンダーの人たちが、それぞれの過去や悩み、希望を語ることで、当事者たちの抱える問題を浮き彫りにしようと試みたドキュメンタリー作品だ。
■ハードル高い戸籍変更
この映画を監督し、出演もしているのが、トランスジェンダーの浅沼智也さん(31)。女性として生まれたが、23歳で性別適合手術を受け、戸籍を男性に変えた。
「昔に比べると、今の日本は僕たちが少しだけ生きやすい社会になったと思います。しかし、全ての当事者が胸を張って幸せに生きられる状態とは言い難い。差別や偏見は続いているし、いないものとされることもあるからです。映像を通して、日本のトランスジェンダーの状況を、世界を含むあらゆる人に知ってもらいたいと思ったのが、映画を作るきっかけの一つです」
浅沼さんは、年代もバラバラで、職業も会社員から、水商売、研究者と、さまざまな境遇で生きる当事者をインタビューしていくことに決めた。実は映画を作ったことも勉強したこともない。友人の力を借りて、昨年7月から撮影、8カ月で完成させた。
映画では、2004年に施行された戸籍上の性別を変更できるGIDの特例法にも触れる。20歳以上であること、未成年の子どもがいないこと、性別適合手術を受けていることなど、五つの要件を満たした人が戸籍性を変えることができる。待望の特例法だったが、変更するためのハードルは高い。