藤井二冠と師匠の杉本八段(C)朝日新聞社
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 師弟ともに1回戦を執念で勝ち抜き、実現した3度目の師弟対決。勝負は藤井2冠の3連勝で終わったが、真剣勝負の師弟戦で垣間見えたのは師弟愛だった。

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 大阪・関西将棋会館で12月3日、行われる第6期叡王戦の段位別予選八段戦に注目が集まった。藤井聡太二冠と杉本昌隆八段の3度目の師弟対決が実現する可能性があったからだ。夢の対決が実現するには条件があった。師匠と弟子がともに1回戦で勝利した場合のみ、両者が2回戦で対戦することになっている。1日2局のハードスケジュールだ。

 先に行われたのは師匠・杉本八段対畠山鎮八段の対局。終盤、AIの形成判断は90対10で畠山八段有利となるほど杉本八段は追い込まれた。攻め手も少ない中、驚異的な粘りを見せ、畠山八段の失着を誘う。たった1手で形成は逆転、AIは90対10で杉本八段有利となり、そのまま勝ち切った。あたかも師弟対決実現への執念が勝たせたかのような形となった。

 1回戦を終えた杉本八段は、こう語った。

「藤井と対戦できればそれは嬉しいですね。ただ、今年6月に竜王戦で指しているので、あまり意識はしてません」

 師匠の大逆転勝利に応えるように、藤井二冠もベテランの長沼洋八段との1回戦に勝利。3度目の師弟対決が実現した。対局後、藤井二冠は「朝の時点ではわからなかったんですけど、結果的に師匠と対戦できるというのは、うれしく思いますし、全力を尽くしたいと思います」と答えた。
 敗れた長沼八段も師弟対決を盛り上げるためか、「次の対局もあるからこの辺で」と言い、対局後に行う感想戦を早々に切り上げた。

 舞台は整った。藤井の勝利からわずか2時間後の7時から3度目の師弟対局が実現することになったのだ。

 2人の公式戦初対局は、師匠が七段、弟子が六段だった2018年3月の王将戦予選。杉本八段はこの対局を「勝っても負けても幸せに満たされる勝負」と言った。

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師匠が弟子に上座を譲る時