「子どもの連れ去りの目的が親権獲得であるとしたら、離婚後の単独親権というゴールがなくなることには大きな意味があると思います。でも、子どもを連れて逃げる親は、とにかく相手から離れたいという切羽詰まった気持ちであることも多いので、法律が変わったからといって『そうですか、では一緒に子育てしましょう』とはならないでしょうね」(土井氏)
「離婚しても親はふたり」というスローガンを掲げ、離婚・別居後も両親が子育てにかかわる共同養育サポートを行う一般社団法人りむすび代表のしばはし聡子氏も「共同親権=共同養育ではない」と言う。
「もちろん共同親権になることで、離婚後も両親が子どもを育てることが当たり前だという意識が世の中に浸透していけば、共同養育のキックオフがスムーズになるというメリットはあると思います。しかし、法律だけで人の心を動かすことはできません。子どもが親の顔色を見ずに自由に行き来でいるような共同養育を実践するためには、計画書をつくるだけではなく、破綻した夫婦が親同士として関係を再構築していくための努力が必要です」
■争うより歩み寄り
では、破綻した夫婦が、夫婦としてではなく、親同士として関係を再構築していくにはどうしたらいいのだろうか。離婚する夫婦の1割が調停離婚だと言われているが、土井氏は安易な調停の利用に懸念を示す。
「昔の日本では、親戚や近所の人、職場の上司など身近な人たちが、夫婦がうまくやるための知恵をつけてくれたり、もめごとの仲裁をしてくれたりしていました。今はそれがなくなり、夫婦のいさかいがいきなり調停の場に移ってしまうこともある。調停は本来、第三者の立ち会いのもとで夫婦間の冷静な話し合いを持つための場です。でも実際には、離婚したいかしたくないか、離婚するなら慰謝料や養育費はどうするかという現実的な話し合いが始まり、少しでもよい条件を得るために相手を攻撃し合う場になってしまっている。これでは、むしろ夫婦の葛藤は上がってしまいます」