ボーナスの「満額回答」が相次いだ今年の春闘。労働者側からは喜びの声も上がるが、一方で基本給を一律に上げるベースアップをする企業はほとんどない。企業には、従業員に還元する余力はないのだろうか。そこで浮かび上がるのが、企業が長年にわたってため込んだ「貯金」である「内部留保」だ。労働総研の藤田宏・事務局次長は、現在の状況をこう批判する。

「現状の内部留保は、異常な状況です。利益が出たら、報酬という形で労働者に還元すべきではないでしょうか。企業は賃金を抑制しすぎてデフレを悪化させ、逆に自分の首を絞めていると思います」

 内部留保は政界でも問題視されている。共産党の志位和夫委員長は2月14日の会見で、大企業が内部留保の1%を取り崩せば、約8割の企業で月額1万円の賃上げが可能だとする試算を明らかにした。

 しかしながら、異論も多い。たとえば、トヨタでは「総資金量」という物差しを使っている。預金をはじめ、すぐに現金にできる金額だ。4兆~5兆円ほどに保っておき、昨年末では5.3兆円だった。これについて、豊田章男社長が朝日新聞記者の取材にこう答えたことがある。

「トヨタの損失は、1カ月止まったら何千億円、3カ月止まったら1兆円を超えますからね。だから、それ(内部留保)は余裕資金じゃないですね」

 大規模な工場をいくつも持っているので、遊ばせるだけで損になるというわけだ。あるトヨタ幹部によれば、リーマンショックによる急激な景気の落ち込みで2009年、生産を14日間も臨時で止めた恐怖がいまだに会社に残っているという。

週刊朝日 2013年3月29日号