ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、ネットオークションで落とした美術品について。
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ひと月ほど前の『出たとこ勝負』で、よめはんの日本画の贋作(がんさく)がネットオークションで落札された話を書いたが、それに関連して──。
わたしは取材のため、ネットオークションの“日本画”を見ていたが、そこに某女性画家(芸大のころからのよめはんの友だちで、わたしもよく知っている)の風炉先屏風(ふろさきびょうぶ)──茶室で使われる二つ折りの小さい屏風。道具畳の向こうに立てられ、亭主の点前と道具を引き立てる──が出品されているのを知った。屏風には桜と萩が描かれ、扇面(せんめん)の日本画四点──牡丹(ぼたん)・水仙・朝顔・薄(すすき)──が貼られている。印章、落款、共シールを含む拡大画像が多くあったので、すぐに真作だと分かった。
わたしはよめはんを呼んで画像を見せた。
「これ、○○ちゃんの作品やろ」
「ほんまや……」よめはんは驚いた。
「どうする。このままにしとくか」
「でも、気の毒やわ」
屏風の出品価格は某画家の評価額(風炉先屏風なら二百万円から三百万円)の五十分の一だった。あまりに安い。某画家は学生のころから五十年も花を描いてきて、その技量は日本有数だとわたしは思っている。「なんで、こんなとこに出たんかな。それも、この値段で」「たぶん、持ち主が亡くなったんや。値打ちの分からん遺族が画商をとおさずに売りに出したんやろ」「○○ちゃんにいおうか。オークションに出てるって」「そらあかん。○○ちゃんが怒る」
そう、画家は自分が描いたどの作品を誰が所有しているか、逐一知っている。理由はどうあれ、その所有者がネットオークションに出品したと知ったら、いい気はしないし、そもそも付け値が安すぎる。そのため贋作と思われたのか、入札はなかった。
「ピヨコちゃんが落としてよ。そしたらオークションから消えるから」