


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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名門オックスフォード大学を卒業後、テレビやラジオで多くの風刺コメディー番組を制作して注目を集め、脚本家や映画監督としても手腕を振るうアーマンド・イアヌッチ監督(57)。最新作「どん底作家の人生に幸あれ!」では英国の文豪チャールズ・ディケンズの自伝的小説『デイヴィッド・コパフィールド』(1850年)を現代に蘇らせた。
「前作『スターリンの葬送狂騒曲』(2017年)の完成後、全然違う作品に挑戦したいと感じた。拳銃や殺人、汚い言葉の出てこないハッピーな映画が作りたいと。本作には貧困や死も出てくるし、それを隠す気はなかったが、否定的で悲観的ではなく、楽観的な作品にしたかった」
現代社会を風刺するドラマを得意とする彼が、英国文学の古典に挑んだ。なぜいまディケンズなのか?
「彼の文章は非常に具象的で人間的だから、登場人物がとにかく面白い。かつ社会的な問題意識も強く反映されている。政治や貧困や産業革命、工場における児童労働など、常に大きなテーマを扱いつつ、それぞれのキャラクターが時代に翻弄(ほんろう)されていく。原作のテーマは現代でも十分意味のあるものだと感じたんだ」
主人公デイヴィッドは父に先立たれ、母も病気で失う。逆境にもめげず、持ち前の楽観的な性格と前向きな姿勢で人生を切り開いていく姿を、カラフルなキャラクターと共にユーモラスに描く。
「過去に何度も映画化された作品だが、物語を追うことにとらわれすぎていて、コメディーの側面が見落とされてきた。原作は笑いが満載されている。例えばデイヴィッドがドーラに恋をするとすべての人の顔が彼女に見えるとか、文章は視覚的な要素が濃く、シュールで現代的。原作の最大の強みは筋書きではなく、キャラクターや会話のおかしさにあると思う」