それはたとえば、「ハンド・トゥ・ハンド」という演目にも表れている。一般的には男性が女性を持ち上げるのが定番であったが、近年では、女性が男性を持ち上げたり、女性が女性を持ち上げたり、といったジェンダーフリーの演技構成となっている。こうして既成概念は新しい概念へと変わっていく。
翌日、舞台裏を見せてもらった。とりわけ筆者が注目したのは、細かい装飾が施された衣装を管理するワードローブ部門。
シルク・ドゥ・ソレイユの衣装は、国際本部にあるアパレル工場ばりの巨大な工房で、生地の染め付けから手作業による縫製まで一貫して行われている。それは、モントリオールがかつて繊維産業で発展した街であることが起因している。
ここで働く地元のスタッフが刺繍(ししゅう)やビーズなどを根気よく縫い付け、完成させる。それらは個性的で独創的な世界観に不可欠な要素となり、唯一無二のショーを形成する要になっている。
■陰で支える守護神たち
ツアーショーの舞台裏では、その日の公演が終わるとワードローブチームがほとんどの衣装を洗濯、翌日全ての衣装やパーツをチェックし、メンテナンスする。この中に、本社採用の日本人、上平英代がいる。
「アーティストが、衣装に対してよりストレスなく心地よく安全に、ステージでパフォーマンスに集中できるように、私たちは日々、見えない所で見えるものを作り上げていくことにエネルギーを注いでいます。こうしてショーがさらに良くなっていって、みなさんに、存分にショーを楽しんでもらえたら」
舞台裏のスタッフも、淡々と仕事をしているように見えて、実は相当に熱いエネルギーを内に秘めている。こうした力が、アーティストを支えるガーディアン・エンジェル(守護神)となっている。
さらに、日によって入れ替わる演目もあるというから、何度観ても楽しめるに違いない。オリジナル版を過去に観た人なら、比べてみるのもいい。シルク・ドゥ・ソレイユの原点の魅力が凝縮されたこのショー。生まれ変わったその姿をぜひ目に焼きつけてみてほしい。(文中敬称略)
(ライター・サーカス研究者・西元まり)
※AERA 2023年2月6日号