絶妙なバランスによって口づける「エアリアル・ストラップ」(photo/Cirque du Soleil 2021 Costumes/Dominique Lemieux)
絶妙なバランスによって口づける「エアリアル・ストラップ」(photo/Cirque du Soleil 2021 Costumes/Dominique Lemieux)

■4回転宙返りへの挑戦

 目を見張るべきは、アクロバット演目の進化だ。冒頭の「アクロ・ポール」は、従来あった「ロシアンバー」と「バンキン」という演目をコラボさせた新技。「ジャーマン・ホイール」や「フラフープ」は、本来は一人のアーティストのほぼ単独の演技だが、本作ではほかのアーティストも技に絡む。新体操にたとえるなら、個人競技ではなく団体競技のように、やや複雑なフォーメーションの演技構成になり、より立体的に見える。

 終盤を飾る10人の「フライング・トラピス」(空中ブランコ)は、ショーを最高潮に盛り上げるクライマックス。世界のサーカスではいまだ4回転宙返りは前人未到の域にあるのだが、ソウル公演で、メンバーのトゥニジアニ・ブラザーズがそれを目指していると聞いた。もしも4回転宙返りの成功を日本で目撃できたなら、とりわけ貴重な瞬間となるに違いない。

 舞台装置の進化も見逃せない。男女2人による「シンクロナイズド・トラピス・デュオ」を支える装置は、トラピス(ブランコ)の角度を機械操作によってさまざまに変えることができ、どの客席からでも見えるように工夫されている。

 誰もが耳を疑った、20年6月のシルク・ドゥ・ソレイユ経営破綻のニュース。その原因は同年3月、コロナ禍によって世界中で上演されていた全公演の中止を余儀なくされたことにあった。再建への道を懸命に探りながら、約1年後の21年4月、同社は公式ホームページで、「陽が昇る。幕間(まくあい)は終わった」という再起のメッセージを発表した。

■どんな状況でも希望を

 既存株主に代わってカナダのトロントにあるカタリスト・キャピタル・グループが経営権を獲得し、経営陣はほぼ一新。国際本部はこれまでどおりモントリオールに。アーティストをはじめ、スタッフが少しずつ戻ってきているという。

「以前とほぼ同じように働いているよ」

 と、広報のフランシス・ジャルベールも語る。 

 現在、米ラスベガスで6作品、米オーランドとメキシコで各1作品の常設ショーと、アイスショー「CRYSTAL(クリスタル)」などの10作品が再開され、世界を巡演中。4月には新作「ECHO(エコー)」がモントリオールで開幕する予定だ。

 数ある作品の中で、5年ぶりの来日公演に「アレグリア-新たなる光-」が選ばれた理由は、「どんな状況でも希望を見つけることができる」というメッセージが込められているからだという。ポスターに描かれた鳥は平和と希望の象徴であり、不透明で先行き不安な今だからこそ、可能性を信じて限界に挑戦し、境界を超えていくことの大切さを、このショーは示してくれる。

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