「これらのバッグの防水性・保湿性・収納性も大麻の保管にとっては非常に適しているんです」

 こうした実用的な面を踏まえた上で、さらに別の理由もあると話す。

「格好ですよ、ファッション性です。元々大麻はアメリカなどではストリートドラッグとして使用されています。だからアメリカが発祥のバッグを持っていることにも意味があるんです」

 彼ら大麻の売人はSNSなどで、あるキーワードを入れると検索に引っかかる。

 自分がいる都道府県名と「野菜」「草」「手押し」などがそのワードだ。野菜、草などは大麻の隠語であり、手押しは配達という意味だ。つまり手押しという言葉を使うと、大手フードデリバリーサービスのバッグを持った人間が配達してくるケースがあるわけだ。それも時間厳守だという。前出の売人が説明する。

「夜間に配達するときは、暗い裏道などは避けて、信号などの交通ルールは必ず守ります。見た目も通常の配達員より清潔な格好をしてますよ。都内の売人がいる場所から1時間以内の範囲であれば、必ず約束した時間内に届けます。違法薬物を欲している人は、すぐに配達しないと注文先を変えるので」

 配達先が、注文者の自宅とみられるマンションだったケースも少なくないという。玄関先でのやりとりとなれば、いよいよ飲食物のデリバリーとしか見えない状態だ。

 さらに、彼ら売人の行動範囲は東京都内だけに収まらない。大阪や地方都市などにもネットワークを張り巡らせており、注文などを受けることができる、と売人は付け加えた。

 このように全国的な販売網をつくるのは、それだけ需要があるということなのだろう。

 法務省が昨年11月に発表した2020年版の犯罪白書には、19年の大麻取締法での検挙者数が前年度比21・5%の伸びで過去最多の4570人だったと書かれている。特に検挙者数の半数以上は20代が中心の若い世代で大麻が広まっている傾向がみられる。

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一度でも摘発されたら別の手口に