
違法薬物の大麻が、一般の生活様式に紛れ込んで流通している。大半の人にとっては、芸能人の逮捕でニュースになる以外は接点はなく、どこかアンダーグラウンドでの出来事、というのがおおかたの印象だろう。それが昨年あたりから、売人たちが街中を平然と行き来し、私たちの目の前で取引しているケースが増えているという。コロナ禍でさらにやりやすくなっているというその手口とは。
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昨年夏、筆者は大麻の売人をしている男との接触に成功し、その後、何度か取材を重ねてきた。
最初に会った時、自転車で現れたその男は、あるフードデリバリーサービス会社のロゴが入った大きな箱形のバッグを背負っていた。年齢は30代前半くらい。よく街中で見かけるフードデリバリーの「配達員のお兄ちゃん」にしか見えない。
「このロゴが入っているだけで信用度が増すので、警察の職務質問に合う可能性がかなり低くなるんです」
バッグを指さしながらそう話した男の配達員としての見かけと、実際の顔は大麻の売人という現実がどうにも一致しない。薬の売人といえば、どこか独特の雰囲気が出てしまうものだが、この男は、配達員としてまったく違和感がなかった。自転車で走るこの男を警察官が見かけたとしても、不自然さを感じることはないだろう。
しかし、バッグの中には、食料品ではない非合法なモノが詰め込まれており、違法な取引を繰り返しているのだ。
売人の男によると、フードデリバリーのバッグを使った違法薬物の「配達」の手口は、1度目の緊急事態宣言が出された昨年4月くらいから出始めていたという。
今年1月に入り、2度目の緊急事態宣言が出ると、午後8時以降も開いている飲食店はめっきりと減った。テレワークも相まってか、食事でフードデリバリーを利用する人が増えたようで、配達員の数も多くなったとみられる。
一方、配達員の数が増えれば増えるほど、彼ら売人が怪しまれるケースは減っていく。