名物連載「あれも食いたい これも食いたい」の東海林さだおさんと、「ああ、それ私よく知ってます。」の春風亭一之輔さんは、以前からお互いの作品の愛読者。落語やコロナ禍の過ごし方などについて語り合いました。
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東海林さだお(以下、東):一之輔さんの連載で缶切りが出てくる話(2020年5月1日号掲載)を読んで、時代って恐ろしいなって。
春風亭一之輔(以下、一):うちの子どもたちが、缶切りの使い方を知らなくて、コロナで家にいる間に教えたって、話ですね。
東:そう。子どもが缶切りを知らないなんて。自分がいかに古い人間になったか。それと、お子さんが、缶を切っていくことは、後退してる、バックしていくってことだって表現したって書いてあって、ああそうか、子どもはそう思うのかと。
一:グイグイ後退して切れていくことに衝撃を受けたみたいです。
東:大人は当然だと思っていますからね。あれは世紀の大発見、名前をギネスに登録しておいたら。
一:登録するとしたら、「バックカッター」とかですかね(笑)。
東:今の缶詰は全部「パッカン」ですもんね。
一:そうなんです。缶切りを子どもがもっと使いたいって言うので、スーパーに缶切りを必要とする缶を探しに行ったんです。でも、パイナップルかあずきくらいしかなかったです。
東:気をつけていないと、時代のほうが先に行っちゃって気づかないことがいっぱいある。
一:そういうのも面白いですけどね。
東:この前、テレビで50歳くらいの調理人が大根を「マッチ棒くらいの太さに切って」って言ってから「あ、今の人はマッチ棒知らないわね。これくらいです」って指で示し直したんですね。それを見て「あ、今の人はマッチ棒知らないのか」と。
一:僕は子どもの頃はよくマッチをもらっていましたけどね。
東:下宿の桟に、喫茶店とか行った店のマッチを並べてた。
一:並べていたんですか。
東:こんな有名な店も行ったんだぜ、という感じに。独身のサラリーマンがすし屋とか銀座の有名クラブとか、みんなが知っている店でマッチをもらうでしょ。空になったらマッチを詰め替える。それでみんなの前でたばこ吸う前に出して「お、お前そんなところに行っているのか」と言われるのを待つ、みたいな。