私が指導する8人の選手の中では、27歳の小堀勇気が練習でつかんだ大きな泳ぎをレースでも実践していました。これまでは前半と後半のストローク数が19、21だったのが、予選は17、19で泳ぎ切りました。決勝前には「行きを18に増やしてスピードを上げて、帰りは19のままで行きたい」と話し、狙い通りの泳ぎを見せました。

 レースでも最後まで自分の泳ぎを崩さないようにコントロールできています。ここからスピードを磨く練習を重ねていけば記録の向上につながります。こういう気持ちの状態で挑むレースと、ライバルに勝つためにとにかくぶん回していくレースとでは、精神のレベルがぜんぜん違います。

 自分をコントロールすることは練習中だけでなく、体のケアも含まれます。国際舞台で活躍した選手の多くは、コンディションに気を配って十分に体のケアをしていました。体の状態を見極めて、どこが張っているのかトレーナーに伝えて疲労回復を図ることができるのは、長く活躍する選手の条件と言えます。

 多くの選手のレベルを引き上げる指導と、五輪金メダルにターゲットを絞ってマンツーマンで行う指導は別ものです。これまで五輪で何回も勝負してきた経験から、そう言えます。

 いま教えている8人の選手は、全体の意識がまだそろっていません。五輪を半年後に控えて力を引き上げる必要があるのは、もどかしく感じます。試合を重ねて高いレベルで意識の共通化をめざしていきます。

(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

週刊朝日  2021年2月12日号

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